誘いに乗らない理由

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海成は帰宅した。 怒ったことと速く動いたことで心臓が激しく高ぶっている。 予定よりも早い帰りに母は不思議そうにリビングから顔を出す。 「海成? どうしたの? 今日はもう解散?」 「ちょっとね。 流二と・・・」 流二と何があったのか聞かれそうだったが、心配されたのは違うことだった。 「海成! あれ程走っちゃ駄目って言ったじゃない!!」 確かに軽く早歩きしただけなのにかなり息が荒れてしまっている。 「走ってはいないよ。 大丈夫だって、これくれい・・・」 「大丈夫じゃないから言っているのよ!!」 母は慌てたように駆け寄ってくる。 「大袈裟だ、よ・・・」 「海成!!」 海成はふらふらとした足取りになり仕舞には気を失って廊下で倒れてしまった。 「ん・・・」 どのくらい時間が経ったのか分からないが、目覚めると最近ご無沙汰であった白い天井が目に飛び込んだ。 ―――また病院へ来ることになっちゃったのか・・・。 もう何度もお世話になった酸素マスクが繋がれている。 何となくであるが、以前よりも身体が弱くなっているような気がした。 「海成! 気が付いたか!?」 「・・・」 横を見ると父が傍でずっと看病してくれていたそうだ。 「お父、さん・・・? お仕事は?」 「母さんから海成が倒れたと聞いて、早退してきたんだ」 「そうなんだ・・・。 ごめん、心配かけて・・・」 苛立ったせいで心臓に負担がかかり仕舞には軽い運動に近い行動を取ってしまった。 医者には何度も注意されていたのは分かっていた。 分かっていたが、苛立ちを抑えることができなかった。 「謝ることはない。 それに海成、安心しろ。 アメリカで緊急手術ができることに決まったんだ」 それはあまりにも突然な報告だった。 「・・・え? いつ?」 「今母さんが医者と話してる。 海成は既に危険な状態だからできるだけ早く、明日にでも旅立とうと思っている」 「明日・・・ッ!?」 明日アメリカへ、そう考えた時に真っ先に頭に浮かんだのは現在喧嘩中である流二のことだった。 「それって、向こうへ行ってからどのくらいかかるの?」 「半年から一年はかかるんじゃないかな。 様子を見ながら手術をしてもらうから」 ―――そんなッ・・・! ―――流二と喧嘩したばかりなのに。 ―――こんな悪い関係のまま、アメリカへ行きたくない・・・! ―――今すぐに、流二に謝らなきゃ・・・。 海成は今すぐにでも謝りにいこうと上体を起こそうとした。 しかし倒れて入院しているというのに認められるわけがなく、当然のように止められる。 「海成、起き上がるな! 安静にしていなさい」 「電話・・・」 「電話? そんなもの駄目だ。 今は海成が第一だ」 「でも・・・」 何かあった時用にキッズスマートフォンなら持っている。 だがそれは家族としか繋がらなく流二に連絡はできない。 ―――もう流二に謝ることはできないの? ―――流二はまだこんな近くにいるのに? アメリカへ行ってしまえば、早々会うことはできず謝ることなんてできないだろう。 だがこのままだと流二と会うこともなく、アメリカ行きになってしまう可能性が高い。 ―――きっと僕はもうお父さんたちの目から離れることができない。 ―――つまり流二に謝る時間すら見つけられない。 ―――・・・嫌だよ、そんなの。 ―――流二と仲直りができないまま離れてしまうなんて。 そう思った海成の目から涙が零れ落ちていた。
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