誘いに乗らない理由

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誘いに乗らない理由

夏休みが始まり早二週間が経った。 中学一年生の海成(カイセイ)は親友の流二(リュウジ)と一緒にアイスを食べながら山沿いを歩く。 自由研究のために枝や石を集めていて、疲労の溜まった身体にミルクアイスが染み渡った。 「暑いなー」 「暑いね」 「なぁ、この後一緒にプール行かねぇ?」 確かに汗もかいたし、日和としては立派なプール日和と言える。 ただし海成からしてみれば直射日光が強過ぎると思うし、そうでなくてもプールには思うところがあった。 「あー・・・。 僕はいいかな」 「じゃあ明日は?」 「明日も駄目」 「明後日」 「明後日も厳しいかな・・・」 「じゃあいつだったらいいんだよ」 「・・・」 黙り込むと流二は溜め息をついた。 海成だって本当は誘いに乗りたいし、断りたくて断っているわけではない。 「海成をプールに誘ってもいつも断ってくるじゃん。 どうして?」 「それは・・・」 「もしかして海成、女だったりする?」 「男だよッ! それに女子だったとしてもプールは別に嫌がらないでしょ」 「いや、女子って何かプールの授業よく見学していたりすんじゃん。 でも思えば、断るのはプールだけじゃないよな」 「・・・」 その言葉に海成は視線をそらす。 「俺がサッカーに誘っても断るし。 野球に誘っても断るし。 もしかして運動苦手?」 海成は何も答えることができなかった。 「どうして何も言わないんだよ。 海成はいつも断るから、俺が折れて海成に毎回合わせているの分かってる?」 「・・・分かってる」 「ならたまには俺の意見も聞いてくれよ。 俺がいつも聞いてばかりじゃん」 気持ちを抑えようと思っていた。 だがこちらの苦労を何も分かっていない物言いについカッとなってしまったのだ。 「・・・そんなこと言ったって、仕方がないじゃないか!」 「は?」 「仕方ないじゃないか!!」 「何が仕方ないんだよ。 言ってみろよ」 「僕だって本当は、プールへ行きたいしサッカーもしたいんだよ!!」 「じゃあ誘いにOKすればいいだろ」 「だからそれができないんだよ!!」 「だからどうして断るのか理由を教えろって言ってんだよ!!」 怒鳴り返され海成の怒りもヒートアップしていく。 「ッ・・・! 流二は僕のこと何も分かってない!!」 「何も言ってくれないから分かるわけがないだろ!!」 「もういい! 流二なんて知らないッ!!」 海成は流二の顔も見たくなくなり踵を返し家へと帰っていく。 ―――・・・理由なんて、言えるわけがないじゃないか。 ―――僕は心臓の病気を抱えているから運動は止められている。 ―――そんなこと言ったら、流二は心配しちゃうでしょ? ―――・・・だから言いたくないんだ。 ―――今まで打ち明けようか何度も考えて悩んだけど結局は言えなかった。 ―――少しは勘付いてくれているかなとか思ったけど、全然気付く様子もない。 ―――もう、何なんだよ!! 海成は怒りのせいで自宅への帰路を足早に歩いてしまった。
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