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そうだ。本当の父親が誰であろうと、俺ははじまりの町で育った勇者だ。帰りを待つ者たちのため、そして信頼してくれる仲間のため、立ち上がらねばならぬ。
俺はもう一度、剣を握る手に力を込める。物々しい音楽が再開する。
「待たせたな父さん! いや、魔王! 今度こそ決着をつけてやる!」
「ふっ、やっとやる気になったようだな。よろしい。ならば、お前ら兄弟もろとも地獄に送ってやる!」
「待て待て待て!」
今度はアレンと声がシンクロした。例のごとく音楽が止まる。
「今度は一体なんだ!」父が苛立ちを隠そうともせず怒鳴る。
「兄弟もろともって、どういう……」
「兄弟もろともってどういうことですか! このオークもどきと私が兄弟だとでも?」
「おい! 誰がオークもどきだ!」
俺とアレンが言い合う中、父は「そんなことか」と肩をすくめる。他人事過ぎて腹が立つ。
「どういうも何も、お前たちは種違いの兄弟だ。言わなかったっけ?」
「聞いてな……」
「聞いてないですよ!」
アレンが取り乱したように言う。そんなに俺と兄弟だったことが気に食わないのだろうかと、若干気落ちする俺。
「アレン君、だっけ? 君、町はずれの孤児院で育ったんだろ?」
「そ、そうですが」
「あの孤児院の子って大半、エリナがその辺で不倫してできた子だから」
「えっ、ということは……」
「ご明察。たぶん、先に倒れたお仲間二人も兄弟だぞ」
「ぐえっ」
父のとどめの一言に、アレンはとうとう泡を吹いて倒れてしまった。俺はというと、母の節操のなさに怒りを通り越し呆れていた。勇者のパーティー全員の母親だなんて、ある意味勲章ものではあるけれど。
「フハハハ! なんだか知らんが、残るはお前一人だな!」
「ぐっ、卑怯な!」
「それでは今度こそ決着をつけよう。ミュージックスタート!」
今日何度目かの物々しい音楽が鳴り響く。俺は剣を構え、魔王である父と対峙するように立つ。お互い何もしゃべらないのは、何か口に出せばまた戦いに水を差されることがわかっていたからかもしれない。
俺たちはゆっくりと間合いをはかり、そして同時にお互いに向けて飛びかかる。
気付いた時には音楽が鳴りやみ、目の前に父がうつぶせに倒れていた。こうして、長い長い旅と戦いの日々は、ようやく終わりを告げた。
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