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その日はひどく疲れていた。
どれくらい疲れているかと言うと、自宅のアパートのオートロック自動ドアの前で鍵を出すのも億劫で項垂れてしまうほど疲れていた。
両肩に重くのしかかる荷物の中を漁って鍵を見つけ出す。なんて面倒な行為なんだ。
しばらくフリーズしていると、他の住人が帰ってきた。自動ドアの前で項垂れている俺を不思議そうに見つめながらもその人は自身の鍵で自動ドアを開けた。
そこで俺は閃いた。
自動ドアが閉まる前にその人の後ろからアパートの中へとするりと入ってのけた。
前の人は俺のことを心底不審そうな目で見てきたが、俺は何か言われる前に階段へと逃げる。
どうか許して欲しい。本当にここに住んでいるんです。ただちょっと疲れがピークで鍵を開けるのも面倒だっただけです。
俺は心の中でそう弁解しながら重い足で階段を上がる。
俺の部屋は2階の階段のすぐ目の前にある。だから、エレベータを待つよりも階段の方が時間的には早かった。
しかし、疲れている体で階段はやはり辛い。たったの1階分がまるで3階分のように感じた。
最後の一段を踏み切り、俺は心の中で大袈裟にガッツポーズをしながら顔をあげる。
そうすれば俺の部屋はすぐ目の前ー。
のはずだった。
しかし、俺は我を疑った。
俺を待っていたの見慣れた自室のドアでは無く、初めて見る模様の壁だったのだ。
え?なんで?
俺まさか階を間違えた?
階段がひどく長いとは感じたが、放心状態になって本当に3階まで上がってきてしまったのだろうか。
だとしたら俺はとんだ大馬鹿者だ、、、、
倒れ込んでもおかしくないほど肩が脱力していくのが分かる。
もう階段を上り下りする気力は無い。俺は少し離れているが、エレベーターへと移動することにした。
しばらくたって降りてきたエレベーターへと乗り込んだ瞬間、俺は再び違和感を覚えた。
あれ?うちのエレベーターて、こんな感じだっけ?
鏡の位置や手すりの位置がなんだか違う気がする。
普段階段を使っているとはいえ、荷物が重い時などはたまにエレベーターを使う。だからこんな初めて乗るような感覚にはならないはずだ。
俺はなんだか不気味になってきた。
もしかして別世界にでもきてしまったのではないか、なんてことまで考えだしてしまった。
俺はそんな不気味さをかき消すべく、2階のボタンを押す。
しかし、エレベーターは動かない。
おかしいなと思い顔を上げてエレベータの表示を見た俺はギョッとした。
今俺が乗り込んだこの階は紛れもなく2階だったのだ。
じゃあ俺の部屋は?
ここはどこだ?
俺は思わずエレベーターを飛び出し、もう一度周りを見渡す。
しかし、そこにはやはり俺の知らない廊下が広がっていた。
すっかり混乱してしまった俺は先程登って来た階段を駆け降りて、オートロック玄関へと向かう。
ゆっくりと開く自動ドアを無理やりこじ開けるようにして外に出ると、目の前にはよく知っている街並みがあった。
良かった、外はいつも通りだ、じゃあさっきのは一体、、、、
俺はさっき出てきたアパートを振り返る。
その瞬間、俺の膝は崩れ、その場に座り込んでしまった。
俺のアパート、もう一個隣だった、、、、
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