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「………。」
鼬を手に乗せて、自身の居住とする城へと帰還するシクナ。巨大な城が聳え立つ。
この土地、笹澄の州を守る巨大な城――。
シクナは、その城の裏口からひっそりと忍び込む。誰にも見つからないように気を配りながら、そのまま手にした鼬の様子を観察し、色々と試してみるのだった。
妖魔故に慎重に、くれぐれも慎重な行動を心掛ける。こんな所を他の者に見られる訳にはいかなかった。
餌を上げたり、何ができるのかをじっくりと観察する。そして、シクナが細い木の枝を出して、それを鎌鼬に切らせてみると――。
「何してるのよ!? シクナ!」
「っ!?」
そんな声が飛んでくる。背後を振り返ると一人の女性が厳しい表情で立っている。白い衣装に身を包み、袴を着ている。胸には甲冑を当てており、いかにも戦う者の正装という感じの衣装だ。
黒い後ろ髪を花飾りで結び、凜としている顔立ちのはずが、今は厳しい表情でこちらを睨んでいる。
17歳にして、弓兵隊の隊長にまで上り詰めた笹澄の兵士。
「ちょっと! あんた、まさか! また妖魔を連れて帰ったの?!」
「う……! まて! サヤ、早まるな! 誤解だ! この事は内密にしてくれ!」
サヤと呼ばれた弓を構えた兵士は、支離滅裂な言葉を発するシクナに向けて、キッチリと厳しい表情で言い放つ。
「いいえ! 今日こそはヒユネ様にキッチリと言いつけます! 勿論、コウゲン様にもね! アンタには説教と反省がまるで足りてないのよ!」
その言葉に、顔が青ざめるシクナ。
「ま、まて……。父上に言うのはやめてくれ。我の首に関わる……」
「嫌です。私は言い付けを守れぬ者には上に立つ資格は無いと、そしてこの里に住む資格は無いと考えます」
「う、うおおお!! こうなれば覚悟の上! サヤ、我と戦え! 決闘だ!!」
「なんで私があんたと戦わないといけないのよ……」
シクナの強引な物言いに呆れるサヤ。
「貴様も討士の一人なら、正々堂々戦って白黒を付けるべきというもの!」
「訳の分からない事を言わないで」
武士道を持ち出して抗弁を垂れるシクナだが、サヤは耳を貸さない。
討士とは、魔を討つ者の呼び名だ。
「待て! 逃げるのか、サヤッ!! 臆病者……ッ!」
サヤは無視を決め込む。これで何度目か。
あれほど忠告したのに反省してないとは言語道断。もはや問答無用。
サヤは厳しい表情のまま、足早にその場を後にするのだった。
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