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「ヒユネ様ったら、また甘やかすなんて……」
「うむ……。流石はヒユネ様、寛大だ……」
そんな言葉を言い掛けるが、サヤの表情を見て口を閉じるシクナ。
「何であんなことしたのよ……! あんた、自分の立場が分かってるの?!」
「……ああ、勿論分かっている。我には鬼の血が混じっていることだろう?」
「そうよ。自覚が足りないわ……」
サヤの言葉に静かに反応するシクナ。シクナは傷痕の事を思い出す。本当は、"あの程度"の傷ならば自力で治すことも出来る。
しかし、それには魔力の他にも鬼の血が必要になる――。
それは、避けねばならない事なのだ。
鬼は、人に仇なす存在とされている。
「しかし、我は、いずれ竜を従える男だぞ。あのような妖魔くらい簡単に手懐けなければな」
「あんた……まだそんな冗談を……」
堂々と言い放つシクナに、頭を抱えたくなるサヤ。竜とは伝説に伝わる怪物の事だ。目撃情報もほとんど無く、本当に信じている人は殆ど居ない。
「冗談なものか。我はいずれ竜を従えるのだ。世界の何処かには、空を飛び、自由自在に天候を操る怪物がいると言う……。なんとも胸が踊る」
意気揚々と話し出すシクナだが、サヤの表情は興ざめの様子だった。
「我は空を自由に飛び、世界を駆け巡るのだ。そして英雄士の称号を手に入れる……!」
英雄士の称号とは、優れた討士に与えられる称号の事だ。歴史に名を刻むと同時に、英雄と称えられる。
討士ならば誰もが志している称号だが――。
「英雄士の称号ねえ……。竜は存在しないんだから、もっとまともな方法で手に入れなさいな……」
英雄士の称号を貰える方法は、もっと真っ当な物が他にも色々ある。
「夢などであるものか。確かな話もある。世界の何処かには確かに竜は存在しているのだ」
「どうせトカゲの妖魔だってば……」
サヤは呆れるしかなかった。見間違いや噂などで話が飛躍して伝わるのはよくあることなのだ。こうした幻の伝承や伝説には飛躍した話はかなり多い。
「そして、その竜の称号を手に入れれば、世界で初の竜を従えた英雄の討士として認められる事になる……!」
話を聞かずに進めるシクナに、サヤは息を吐くしかない。
廊下を歩きながら、まるで反省の様子を見せないシクナを見ては、今後のことだけが心配でならないサヤだった。
こんな奴が次期筆頭にでもなったら、どうなることか……。
「………。」
それを阻止するためにも、自分が頑張らないといけない。サヤは固く覚悟を固めるのだった。
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