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第一章
「話があったのは、この辺りか……」
注意を向ける一人の男――シクナ。奥深い森の中で、辺りに警戒を向けていた。不気味な静けさだけが残る森で、何かの気配が感じ取れる。
妖魔が蔓延る証である瘴気――それが辺りから感じ取れる。
「………!」
腰に差した刃に手を掛ける。ゆらゆらと風が吹く。どこからこちらを狙っている姿の見えない存在に対して警戒をする。
「っ――!!」
次の瞬間、素早く身を翻すシクナ。不気味な静けさのある森から、風が飛んできた。
草木を裂いて、自身の立っていた場所を通り過ぎる。
「これは……!」
驚いて見返すと、先ほど自分のいた場所が切り裂かれている。
その場を移動しつつ正体を探るシクナ。討士としての自分に貸せられた使命、妖魔を退治するという使命を果たす為に。
最近、この辺りで奇妙な妖魔が出ると聞き、その対処の為にシクナはやってきたのだ。
「……!」
天狗の仕業かも知れないと警戒をしていた。もしそうなら一大事だったが――。
「ッ……!」
もう一度、見えない斬撃が飛んでくる。風に乗り、ゆらゆらと揺れる草木を薙払って襲い来る。
「っ………」
今度は身を構えるシクナ。じっと動かず、神経を集中させる。
一筋の風が吹く。
「っ――!」
次の瞬間、シクナは宙を掴むと、その手に何かを捕らえる。
「お前が犯人か……」
「キュイー! キュイー!」
手の中で悶え足掻いているのは、鼬だった。
話にあった見えない刃に切り裂かれるというのは、こいつの仕業のようだった。
風を操る妖魔で、鎌鼬と呼ばれている。
天狗の仕業とはいかないまでも、今回の件はこの妖魔の仕業ようだった。
人に対しての大きな被害の報告は無いが、放っておくのは中々に危険な妖魔だ。
「さて、お前を解放してやりたいところだが……」
「キュイー!!」
手の中で暴れる鼬だが、ある考えを浮かべて笑みを浮かべるシクナ。
「………。」
「キュッ……?!」
シクナの目が赤く輝く。同時に血が煮えたぎるように沸騰し、赤い魔力が身体を覆った。
『我に従え……』
その言葉を鼬が聞くと、鼬の様子が一変するのだった。
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