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お嬢様へ
「いってらっしゃいませ、お嬢様」
それは、わたくしのいっとう好きな人へ贈った最後の言葉でした。しかし、その人はもう二度とここへ帰ってくることはありません。
ずっと、ずっと。
この先どれほどの時間が経ったとて、お嬢様がこのお屋敷に戻られることはないでしょう。もう姿の見えないお嬢様の背中を追うように、行き先の方向に視線を向けますが、当然のようにそこには何もございません。
誰もいらっしゃいません。
ただただ、庭先に植えられた桜の樹から、はらはらと数枚の花びらが舞っていただけでした。
──ああ、そういえば。
あの日も、そんな光景を見た覚えがあります。ちょうど今日のように、よく晴れた日のことでした。桜もまた同じように美しく太陽の光を反しながら、はらはらと空を舞っていました。
あの日。──それはほかでもなく、わたくしがこのお屋敷へ初めて足を踏み入れた時のことでございます。
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