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わたくしと出逢ってくださって
とある商家の次女として生まれたわたくしは、家では「要らない」存在でした。次女とはいっても、ふたりの兄と姉がおりましたので、家督の継承も、いざというときの保険も、どこかのつながりをつくる道具も、あの家には揃っていたのです。おまけに、わたくしはお父様が経営する娼館の従業員の娘でした。つまり、娼婦の娘。いってみれば、汚れた子です。お義母様からしたら、邪魔でしかたなかったに違いありません。生母は出産のあと、流行り病であっけなく亡くなり、まだ赤子であったわたくしはお父様の下に引き取られることとなりました。
ですが、本当にお父様の子どもかどうかもわからないわたくしに、「居場所」などありませんでした。
透明人間になりたいと、いなくなってしまいたいと何度となく願ったものです。
透明になれれば、あの家のどこにいたとて殴られることも、けなされることもないのだと信じていたとも言えましょう。確か十二になった頃だったでしょうか。お父様がお身体を悪くされ、お兄様とお義母様が家を支えるようになると、わたくしは見世物小屋へ売り出されることとなりました。厄介払いだったのでしょう。
そのときのことはよく覚えております。
なんでも、実の母には西欧の血が入っていたらしく、わたくしは少々色素が薄かったのです。栗色の髪の毛に赤い瞳。それは奇妙な容姿だったのかもしれません。家の者はみな、このようなわたくしの姿を「化け物」だと言っておりました。きっとこの家に災厄をもたらす、とよく使用人が噂していたものです。赤い瞳など聞いたことはない、と。何度言われたことでしょう。
そうして、わたくしは売られることになったのです。
「お前でも、役に立てる場所があるぞ。金を稼げる場所があるぞ」
そう言われながら。
別に、お父様も顔も知らないお母様も、そしてお義母様も。お姉様やお兄様。
誰一人、恨んでなどおりません。
──あの日、見世物小屋に売られたことで、わたくしはお嬢様とお会いすることができたのですから。
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