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陽一の体から、ゆっくりと妖魔が、ひとつ。またひとつと死んでいく。
陽一の瞳が徐々に正気の色を取り戻す。
澄んだ瞳から涙が零れだし、口から、ボソボソと呟きだした。
「…たい」
「えっ?」
未来は、驚き、聞き返した。
「会いたい」
陽一は言った。
少しずつ意識がハッキリとしてきたのだろう。
「ゆう…た。あゆ…む。おきく」
陽一は、たどたどしく家族の名前を呼んでいる。
未来は彩兄を、気遣わしく見たあと陽一を見た。
「戻ろう。陽一さん、みんなが待ってるよ」
未来が言うと陽一は、首をゆっくりと傾け未来を見つめる。
「まって…る」
「みんな。みんな。陽一さんを心配してるよ。優太君も歩君もお菊さんも晴助さんや梅子さん、それに花ちゃんだって無事を祈ってるよ」
陽一の瞳が揺らめいた。
「会いたい。俺の家族。俺の大切な……」
だから。帰ろうと未来は言った。
しかし、無情にも陽一の瞳が濁りだした。
徐々に魔気が陽炎のように濃くなり体から立ちこめる。
「陽一さん?」
急に言葉を失い、陽一は静かになった。その様子に未来は怪訝に思う。
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