妖怪と薬

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 寂しい思いはあるのに思い出せない。産まれた山も里も、親の顔も思い出せない。 「おきく」  転々と旅をして、初めて会った彼女は、とても良く笑う子だった。  細かいことが思い出せない。デートをしたり、話したり、喧嘩をしたり、そんな些細なことがあったはずなのだ。 ぼんやりと霞みが浮かぶだけ。しかし大切だと陽一は思った。  彼女と結婚して子供が生まれ、宝物ができた。大切な大切な家族。  守るんだと思った。どんなことがあっても俺が家族を守っていくんだと 「ゆうた、あゆむ」  父ちゃん。とうちゃん。  子供たちの声が木霊する ―俺は、こんなところで死ぬのか? 「いやだ…もう、ひとめだけでもいい」  ヤマアラシは、陽一にお尻を叩きつけた。  ブスリと棘が刺さる。  薬が浸透する。 それなのに何も起こらない。 「無駄だ」  二葉の冷たい言葉が未来の心を貫く。  二葉はなにも感じてないのだ。  二葉が、ここまで感情がないなど未来は思いもしなかった。 「甘い考えは捨てろと言った。手遅れだ」  どうして、平気でいられるの?未来は悲しかった。
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