71人が本棚に入れています
本棚に追加
寂しい思いはあるのに思い出せない。産まれた山も里も、親の顔も思い出せない。
「おきく」
転々と旅をして、初めて会った彼女は、とても良く笑う子だった。
細かいことが思い出せない。デートをしたり、話したり、喧嘩をしたり、そんな些細なことがあったはずなのだ。
ぼんやりと霞みが浮かぶだけ。しかし大切だと陽一は思った。
彼女と結婚して子供が生まれ、宝物ができた。大切な大切な家族。
守るんだと思った。どんなことがあっても俺が家族を守っていくんだと
「ゆうた、あゆむ」
父ちゃん。とうちゃん。
子供たちの声が木霊する
―俺は、こんなところで死ぬのか?
「いやだ…もう、ひとめだけでもいい」
ヤマアラシは、陽一にお尻を叩きつけた。
ブスリと棘が刺さる。
薬が浸透する。
それなのに何も起こらない。
「無駄だ」
二葉の冷たい言葉が未来の心を貫く。
二葉はなにも感じてないのだ。
二葉が、ここまで感情がないなど未来は思いもしなかった。
「甘い考えは捨てろと言った。手遅れだ」
どうして、平気でいられるの?未来は悲しかった。
最初のコメントを投稿しよう!