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「ああ。そっか今日だっけ」
「うん。昼から東京に向かうみたい」
「そっかー。じゃあ。無理だね。お母さんにキーホルダー有り難うって言っておいて」
「わかった」
ニコリと笑って未来は、慌てたように鞄に教材を詰め込んだ。
「何々?綾瀬ちゃんのお母さんから何貰ったの理恵ちん。確か、綾瀬ちゃんのお母さんって粘土作家だったよねー」
友人の愛子が、耳をそばたてて話に割って入ってきた。
「めざといな。愛子は。ほら愛子が用事があって行けないって言ってた日に、あやせっちと二人で出かけたって言ったよね」
「先々週だっけ?」
「そう。ハンドクラフトのイベント。そこで、あやせっちのお母さんが粘土でキーホルダーを作って販売してたの。
その時に、友達だからってくれたの」
理恵は、ポーチに付いている猫のキーホルダーを見せた。
「ああ。ずるいんだー」
「だから黙ってたのよ」
クスクスと未来は友人に笑いかけ、鞄を肩に掛けた。
「作家と言うほど売れてる訳じゃないんだけど、それ意外にも仕事してるし、良かったら愛子ちゃんの分も今度お願いしてみるよ」
「やったー」
「ああ、もう行かないと」
未来は壁時計を見た。時刻は十二時五分。
慌てて二人に手を振って扉に向かうと、途中にあった机の脚に足をぶつけた。
「痛ったー」
「あはは。おっちょこちょいだなー。あやせっち」
恥ずかしさで、はにかみながらも未来は、もう一度、二人に手を振ってパタパタと教室を出て行った。
「嘘。綾瀬さん帰っちゃったのー。理恵」
理恵の友達が教室に入って来た。
「ああ。竹屋に誘ったけど、無理だって」
「えーーー。もう。折角。会わせたい男がいたのに」
「そう言う魂胆か」
「えへ。何かしら、と・に・か・く。そいつ、いい奴なんだってば、どうしても綾瀬さんと会わせてあげたいの、理恵協力してよー」
「って言われてもねー。あやせっちの家は共働きだから、家事全般あの子がやってるんだって、だから、忙しくて、殆ど。遊べないわよ」
「うっそー。ってか。偉いー」
友人達が、こんな話しをしているなど当の本人は知らない。
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