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悪霊と日常
未来は、昇降口を出た。
「あっついなあ」
高く登った強い日差しが、日陰に馴染んだ体に鞭を打ち、その箇所がじりじりと痛んだ。
蝉の五月蠅さが更に暑さを増して未来は、腕に身につけていた、ヘアゴムを行儀悪く口に加え、髪を束ねて結んだ。
そのついでに、制服の襟のボタンを二つほど解く。
正門を出て暫くすると
「だらしない格好するなといつも言うてるやろうが」
小脇に下げていたスクール鞄の中から、くぐもった声が聞こえてきた。
ジーと鞄のファスナーが開き、モゾモゾと動く物体。掌サイズの狐の縫いぐるみが鞄から顔をぴょこんっと出した。
「女の子なんやから、慎ましくせなあかん。それとテスト勉強やけど、ええ加減、兄ちゃん頼るなや。いつまでも兄ちゃんが教えてやるわけにいかんのやからな。聞いてんか未来」
狐の縫いぐるみ彩兄が、いつもの様に小言を言い出したので、未来は鞄のポケットから無造作にイヤホンを出す。
だが、コードが絡まり、未来は苛立だしげにしてから、さっさと諦めて戻した。
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