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私たちの出会いは誰もが憧れるような王道の恋愛の道を歩んできた。
同じサークル棟で練習してる同級生で。家の方向が同じで。
帰り道では趣味の音楽のことを語り合って。
分かれ道ではお互いが離れたくなくて二時間も三時間もずっと話し続けてしまうような関係だった。
「僕、優衣が誰かの彼女になるなんて想像したくない。僕と付き合ってくれ」
そう告白してくれた時は正直、勇輝が私をそういう風に見ているなんて考えもしなかった。
ずっとそばにいてくれた家族のように感じていた勇輝のことを男だと感じた瞬間だった。
私をそういう目で見ていたと感じたその瞬間はちょっぴり怖かった。
まるで子供のころに話しかけていたぬいぐるみから急に筋肉が付いて、毛むくじゃらになって言い寄られてきたような感覚は正直あった。
でもそれ以上に嬉しくて。
ちょっぴり恥ずかしいけど私って誰かに愛される人間なんだって本気で思えた。
ずっと近くにいてくれた勇輝にそういう風に思われることが恐怖以上にとっても嬉しくて。
そのときから少し震える声で、まっすぐな眼で私を求めてくれた勇輝に応えたいと思った。
勇輝のそばにいると暖かかった。
心の火が灯るというのだろうか。
暖炉のそばにいるように体の芯から熱が全身に回るように穏やかな気分にさせてくれる勇輝が好きだった。
あの頃の私たちはきっと100点に違いなかった。
私って本当に自分勝手なんだと思う。
それだけ勇輝のことを頼りにしていたのに今はその熱がうっとおしくて仕方ない。今、勇輝のそばにいると熱く暖房の効いた部屋にマフラーを差し出されている気分にされてしまう。うっとおしくてつい突き放してしまう。
恋愛関係という器のなかで私は勇輝の熱でほだされてじんわりとにじみ出てきた愛情が今は八つ当たりに近い感情で濁らせてしまう自分が悲しくて、腹立たしくて仕方ない。
ぐつぐつと一人で煮込まれている鶏肉から出る灰汁をすくいながら私は昔のことを思い出してきた。
「なあ、俺は今日はもう帰ろうか?」
「……そうしてほしい」
ぼんやりと鍋を見つめる私の表情が酷く曇っていたことを彼は察したのだろう。
寂しげに立ち上がり、上着を羽織り玄関から出ていく彼の背中はとても小さく見えた。
今の私たちはいったい何点なんだろう。
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