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「お前とお前、今日でクビね。」
突然解雇された。何の前触れもなく、職を奪われた。退職金も出ないそうだ。
当然、不当な解雇だと上司に訴えた。俺自身解雇される理由に心当たりがない。
何か大きなミスをした訳でも、犯罪を犯した訳でもない。
かといって会社が不景気な訳でもない。
「いやあ、もういらないんだよね。いるだけ無駄って感じ?」
「そーそー。給料泥棒とか、ウチに必要ないから。」
そう言われ、共に解雇された哀本(あいもと)は泣き出した。
確かに俺と哀本はあまり仕事ができない。営業成績も下の方だ。
というか最近はあまり仕事が回ってこなかった。それが原因なのだろうか。
だからといって、そんな突然の事態をすんなり受け入れることなどできるはずもなく。
俺は怒鳴りながら二人の上司の胸倉を同時に掴んだ。ガクンガクンと揺さぶって、解雇を取り消すように訴え続けた。
「安心して。この現場は俺とこいつで十分だから。」
そう笑顔で返されて、俺の怒りはピークに達した。本気で殺してやろうかとも瞬間的に思った。
だが頭のどこかでは分かっていた。これ以上こいつらに何を言っても無駄だと。
張り付いたようなニコニコ笑顔で、同じことを繰り返すだけ。
まるで空っぽのロボットのようだった。
結局、俺と哀本は最低限の荷物を持って会社を後にした。
近くの喫茶店に入り、泣き止まない哀本を慰める。
「僕達、あの会社に23年も勤めたんだよ?なのにこんな突然クビを切られるだなんて…。」
俺達を解雇したのは越天楽(えてんらく)課長と、喜戸(きど)部長。
元々は俺と哀本の同期だったが入社15年目になると、俺達を追い抜かして上の役職へと昇格していった。
「新人時代は僕達4人で肩を並べていたのに…何でこうなっちゃったんだろう。」
越天楽も喜戸も愛嬌があって、上司にも取引先にも好かれていた。そのおかげか、ぐんぐん営業成績を伸ばした。
それと比べて俺と哀本は、愛嬌などまるでなかった。
俺は常に仏頂面で常にイライラしていたし、哀本は不足の事態があればすぐに泣き出す始末。
そんな訳で、あいつらとの差が開いていくのは必然だった。
「鬼怒川(きぬがわ)くんはこれからどうするの?」
そう哀本に問われ、しばし考える。
再就職をするにもこの歳だ。それに解雇されたという履歴もある。
雇ってくれる会社は少ないだろう。
それに俺は、怒ることしか取り柄がない。そんな俺を使ってくれる会社となるともっと絞られてくるはずだ。
「僕、もう一度解雇を取り消してもらえないか会社に聞いてこようかな…。」
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