天国行き列車

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辛い人生だった。 楽しい事なんてほんのこれっぽちもなかった。 思い出すのは貧しかったりいじめられたり孤独だったり、ろくな事はない。やっとお勤めも終わり。 お迎えがきた。 あの列車にのれば天国にいける。 天国よいとこ一度はおいで酒は美味いしねぇちゃんは綺麗だというじゃないか。 もう行くしかないね。 ああ、さっぱりした。 もう未練はない。 はやく天国行きこないかな。 ホームのデジタルの掲示板に天国行きとでた。 なになに到着は丑三つ時だとな。 丑三つ時っていつ? おれは考え込んだ。 AM2時から2時30分のあいだだよ。 後ろから若い娘の声がした。 おれはふりかえった。 マスクをしているが、ぱっちりした目の可愛い女子高生だった。 おしえてくれてありがとう。 女の子はにっこり微笑む。 あたしも同じ電車を待っているんです。 きみも! うん! 若いのに乗るのはやくないか? ちっとも。 何があったのか知らないけどお疲れ様。 列車きましたよ。 やれやれやっと天国に行ける。 乗りましょう。 おれは娘ぐらいの年頃の女子高生と列車にのりこんだ。 ガタンゴトン、列車は揺れる。 悔いはなかった。 自分なりに精一杯生きた。 ただ一つだけ気になることがあった。 が、もうおわったことだ。振り返るまい。 列車は走り続ける。 この列車やけに暗いところ走るな そう思っていると 三途の川 三途の川 アナウンスが流れた。 え、まだ渡ってなかったのか。 おれは少しばかり緊張した。 三途の川駅が近づくと車掌さんの声が近づいてきた。 魂の切符を見せて下さい。 はい、あなたはここで降りて。 おれは三途の川駅で降りろと言われた。 横に座っていた女子高生はそのままで良いよと言われていた。 おとうさん、ここでお別れだね。 おまえ誰だい。 女子高生がマスクを外した。 幼いころ捨てた娘だった。 女に狂って家族を捨てたおれが馬鹿だった。 もし生きていれば今頃は高校生ぐらいだろう。 娘の魂は成仏仕切れずにずっとおれを探していたのだという。 そしてついにこの列車でおれを見つけた。 お父さん、会いたかった。 もう思い残すことはないよ。 さいなら。 おれは三途の川駅のホームから遠ざかる天国行きの列車をいつまでも見続けた。 やがて足下が熱くなってきた。 みると真っ赤な溶岩流が流れていた。 あなたは地獄行きです。 そう言われた瞬間、おれは鬼から溶岩の川に投げ込まれてしまった。 あの世でおれをまっていたものは地獄だった。 この世も地獄ならあの世も地獄 おなじ地獄ならこの世の方が少しばかりましかもしれない。 なぜならこの世の地獄は悔い改めてやり直すことが出来るから。
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