女の「怒ってない」は絶対怒ってると思ってた

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 その後。俺の胃潰瘍の診断結果と、先月に亡くなった癌患者のカルテが取り違えられていたことがわかり、月美は無表情のまま病院を出る。神様助けて、すげえ怖い。殺意が伝わってくる。 「えっと、怒ってるよね?」 「怒ってるね。怒り心頭だね。頭に上った血でお湯沸かせそうなくらい、念力で車爆発できそうなくらいMAX怒ってるね」  そこ正直に言ってもらえるのが凄くありがたい。やっぱり怒ってたら怒ってるって言って欲しいわけよ、男心として。 「今新型コロナ流行ってるからさ、医者も疲れ切ってるんだよ。まさか漢字まで一緒の同姓同名で診察券番号が一文字だけ違う人がいるなんて思わないじゃん。すっげえ謝ってたしさ」  一応亡くなった人にはちゃんと本来のカルテが使われていたのが唯一の救いか。亡くなった後に俺が検査をしたから、完全に俺だけなんか変な事になっていたようだ。 「わかってるから文句言わなかった。お医者さんは労わらないとね。さて誰に文句言おうか」 「俺かなあ」 「冷静に考えても浩紀のせいじゃないでしょ。そうね、ここはやっぱり神社かな。薬師如来にチョップして奥歯ガタガタ言わせるしかないよね」 「全然冷静じゃない。やめて頼むから」 「怒っていいって言ったよね?」 「あ、はい」  とりあえず神社関係者と薬師如来の身の安全確保の為、俺は時間稼ぎができるアクティビティを必死に検索するのだった。ダメだ、コロナでどこもやってない。時間かかることってなんだ。 「えっと、ほら。今から引っ越す候補の場所下見に行く?」 「片道二時間かかる道のりを病み上がりで行く気なの。寝てて」 「あ、はい」 「あと」 「はい?」 「私と一緒に長生きしてくれないと、怒るからね」  怒ったような、困ったような、そんな微妙な顔で。どちらかと言うと笑ってる月美に俺も笑う。時間かかるアクティビティ、なんてことはない。俺が長生きする事か。 「善処します」 「よろしい」 END
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