女の「怒ってない」は絶対怒ってると思ってた

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 なんてことがあり、結婚して子供が生まれて。子供が生まれたら子供に合わせて月美をママって呼んだら「私は貴方のママじゃない」と怒られた。怒られたっていうか叱られた。  子供が小学生の時は「あら、名前で呼び合うなんてラブラブね」なんて周囲にからかわれ、娘が思春期になった頃「名前で呼び合わないでよキモイ」と言われ娘は月美にチョップされ。  娘が成人して独立して結婚して、夫婦二人きりになった頃も名前呼びをしていたら周囲から羨ましがられた。旦那からはおい、としか言われなくて腹が立つとご近所さんの愚痴を聞き流し。  そして俺が定年を迎えるころ、ステージ4の癌が見つかった。生活を楽にしてやりたくて、多少具合が悪いのを無視して働いたツケだ。  余命宣告をされ、俺は病院のベッドの上にいる。月美は相変わらずの無表情。長年一緒にいた俺にはわかる。今すっげえ怒ってる、声かけるのが怖い。 「私、今凄く腹が立ってるの」 「無理して病気進行させたことだろ、ごめんって」 「違うよ。貴方の病気に気づかなかった自分に」 「それは俺のせいだから仕方ないだろ」 「食欲減ってきたときに首輪とリードつけてでも病院に引っ張って行けばよかった」 「犬か」  あはは、と笑う。月美もつられて笑う。目からは大粒の涙がこぼれている。 「怒るか笑うか泣くか、どれかにしてくれ」 「じゃあ怒る。今まで怒った事ほとんどないから、一生分怒る」 「あ、はい。どうぞ」 「何で病気になっちゃうの、何で私は気づかなかったの、何で治らないの、何で、何で……何で、あと半年しか生きられないの」 「ごめんって」 「私一人で生きなきゃいけないよ、この先ずっと。浩紀が定年退職したら田舎に引っ越してのんびり過ごそうって言ってたのに。神様にお祈りしても何も返ってこないよ、願い叶ってないよ。お賽銭10万入れたけど全然何も変わってないよ」 「10万ってなあ」 「どうすればいいの、どうすれば良かったの。何もできないよ私、私……」  怒ってるっていうより、やっぱ泣いてるよな。俺もだけど。 「まあとりあえずアレだ」 「……何」 「幸せだったよ、ありがとう月美」 「こちら、こそ……」 「あと月美はもうちょっと怒った方が良い。感情爆発させるのも良い事だよ」 「うん」
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