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「服とか、可愛いって言った方がいい?」
する前と同じようにベッドで胡座をかくあっくんに聞かれた。パンツを脱いだままのボクは上のひらひらだけを纏いその前に正座する。
「だってあっくん可愛いのが好きでしょ」
「服とかは正直、差が分からない」
「……女の子っぽい可愛いボクだから好きなんじゃないの?」
「いやべつに、どんなでも好き。だってしんちゃんが電車の靴泥だらけにしてる子供の時から見てんだし」
ボクの努力は意味がなかった?
「しんちゃんが好きな格好したらいいよ」
「好きな……」
「部屋とかシンプルだけど可愛いの集めたいなら手伝うし」
「ううん。違う。ボクは、ちがう」
好きなのはアースカラーやモノクロ。シンプルな服、シンプルなもの。ごてごてしてんのはめんどくさい。
けど可愛いものっていうのは繊細で、ちょっと装飾的だと思っていた。素敵だとは思うけど、最も好きとは違う。もふもふのぬいぐるみだって可愛いけど、埃が沸くなぁって思ってしまう。カラフルも花柄もキャラクターもいいけれど、情報が多くてちょっと疲れる。
「"ボク"は……女の子みたいに可愛くしなきゃあっくんと結婚できないって思ってたから」
「俺とのため? そんな気にしなくていいのに」
「してたの! 頑張らないといけなかったんだから……」
でも、誰のために。
あっくんが可愛い女の子を好きだって思い込んでた。電車を好きな幼稚園児はそれをしまって、代わりにお姉ちゃんのお古で身を固めた。だって男の子は女の子を好きなものだって思ってたんだ。でも女の子になりたいわけではなくて、こんな中途半端なことになっていた。
「最近もうひげだってメイクで隠せない気がして」
「えー? わかんねぇけど」
「節穴」
「ひどい。ひげやだ?」
「やだよ」
「俺もめっちゃ生えるんだけど」
「あっくんはいいの!」
「しんちゃんはだめ? よくない?」
「よく……」
ボクなりの可愛いを目指していると言いながら、女の子の真似っこをしていた。でも、それをやめたら?
どうせ今後はひげももじゃもじゃになるんだし、今全て捨ててしまおうか。
「あっくんはそれでいいの? ボクのひげがもじゃもじゃで、可愛い服も着ないで、可愛いメイクもしないで……」
「俺の知ってるしんちゃんは家で涎垂らして寝てるし、メイクじゃなくてパック? マスクみたいなの着けてるし、パジャマに羽織っただけでコンビニ行くし」
ずっと神経尖らせてるのは、お隣さんだから無理なのだ。
「こういうエロい格好は大歓迎だけど、服以上に好きな子がこんなことしてくれてるっていうのがいい」
熱を持った目で力説されると冷静になってしまう。
「"おれ"もう可愛いやめるかも。でもあっくんはどんなおれでも好きだよね?」
「おう」
「嘘ついたら針千本飲ますから。バナナみたいにちんちん輪切りにしてやる」
「浮気してもいないのに!?」
あっくんは脱ぎっぱなしの下半身をとっさに隠した。
「あっくんがおれ以外を好きになること、ないもんね」
「うん」
「結婚しようね。ずっと一緒にいてね」
「いいよ」
「それで、一緒に死んでね」
「はい」
いつもみたいに軽く返事をされたから安心して、メイクごと零れ落ちる涙を白いベビードールに擦り付けた。
[終わり]
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