知っている私と知らない私

14/16
前へ
/16ページ
次へ
 死んでない。 「あれ、結局死ななかったね」  いつもどこから現れてくるか分からないオトコオンナが言った。 「どういうことですか?」  状況が読めない。死ぬと言っていたのは嘘だったのか? 「なんか、狂ったね」 「……狂った?」 「うん。多分、死ぬ直前に『死にたい』っていう感情が消えたんだと思う」  ああ、確かに消えた。  竹田くんのおかげで、『死にたい』という気持ちがなくなって、これからも頑張ろうという気持ちになった。 「その感情が消えると、設定も狂っちゃうんだよね。なんせ、『死にたい』人を死なせるためのやつだから」  オトコオンナのその言動でようやく意味が分かった。死にたいと思っていない人をあえて死なせる必要もないってわけか。 「でも、今思うと、死ななくて良かったです」 「いや……」 「いや?」  まさか、今私が言ったことに対して否定的な答えが返ってくると思っていなかったから、思わずおうむ返しをしてしまった。  そして、オトコオンナの口からは、衝撃的な言葉が出てきた。 「いや、でも、君が死ななかった分、他の誰かが死んでしまうんだ」  え?  私の心臓がバクバクと鳴っている。  ******
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加