知っている私と知らない私

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「いや、正確に言うと『死にたい』という感情を心の内側に秘めている人だな」  オトコオンナはそう訂正したが、それでも意味がよく分からない。 「……どういうことですか?」  私が聞くと、オトコオンナは面倒くさそうに説明し始めた。 「死にたいのに、死ぬのが怖くて死ねない人とかいるだろ? まあその人もそうだけど、中には死にたいという感情を抱いているにも関わらず、その感情を無理矢理押し殺して、自分は死にたくない、と思い込む人もいる。多分君もそのタイプだろう?」  ……そうなのかも知れない。ここ数日、部長のせいでずっと苦労しっぱなし、楽しいことなんて一つもなかった。本当は、心の奥底に仕舞い込んである、部長への嫌悪感や吐き気と一緒に、『死にたい』という気持ちも混ざっていたのかも知れない。 「だから、その人達を楽にしてあげるために、その人達を殺すんだ」
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