トラウマが消えるまで

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吊戸棚からカセットコンロを出しながら、松原くんが息をついた。 「なんか……」 「ん? どうしたの?」 「俺、どうにかなりそう」 「どうにかって?」 「……こうやって、朱音と一緒にキッチンに立つなんて信じられなくて、嬉しい。何もしないなんて言ったけど……けっこうきつい」 松原くんはもう一度息をつくと、顔を赤らめて、カセットコンロをローテーブルに置きに行った。 その背中を見ながら、私もボンっと顔を赤くする。昨日電話で、甘くするけど、何もしないと言った彼の言葉が頭のなかをぐるぐると駆けまわる。 お鍋に野菜や肉を入れ、カセットコンロの上に置き、ふたりでローテーブルの前に並んで座った。 カチッとコンロの火をつけると、程なくしてグツグツ煮立った鍋からいい匂いがしてくる。 頃合いを見て、缶ビールの蓋を開ける。彼は宣言通りノンアルコールビールで。 「おつかれ」 「おつかれさま。お招きいただき、ありがとう」 カチンと乾杯をして、ビールを流し込んだ。くーっ! やっぱり仕事のあとのビールは最高です。
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