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「ふふっ、なんか……」
「どうかしたの?」
「めっちゃ美味しそうに飲むなと思って」
「えっ、あぁ。うん、お酒はけっこう好きだよ。あんまり強くないけどね」
「酔って甘えてもいいよ? だけど俺にだけな」
……それは……大変だ。
じっと見つめられて、なんだか恥ずかしい。
「すっ、すき焼きいい感じだよ。さ、食べよ?」
「うん」
その状況に耐えられず、パッと鍋の蓋を取る。もあっと湯気が立ち上り、グツグツという音とともに、割り下のいい匂いが鼻をくすぐる。
思わず「わーっ」というふたりの声が重なる。ご飯をよそい、卵をといて手を合わせ、いただきますをした。
「……うま」
「ひゃー、すき焼きなんて久しぶりに食べたよ、美味しい」
「おかわりあるから、いっぱい食べて」
「あっつ……はふはふ。うん、ありがとう」
松原くんがさんざん悩んで買った高級お肉は、口に入れるとものの3秒で溶けた。
少しでも長く味わっていたいのに、あっという間に溶けて喉の奥へ滑り降りてしまうのが悲しい。
「お肉が溶けたー!! もっと味わって
いたいのに……」
「ほんと、肉うまいな」
「あぁ……幸せ。しばらく余韻を噛み締めます」
「なにそれ」
ゲラゲラ松原くんが笑う。こんなに思いっきり笑うんだ。くしゃっと笑った顔、けっこうかわいい。
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