転生

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 わたしは、もうすぐ死ぬ。  たくさんの死を見届けてきたわたしだったが、いざ、自分が死すとなると、感情が追いつかない。悲観しているわけではない。怖いわけでもない。ただ、死したのち、自分はいったいどうなるのか、死後の世界では何が待ち受けているのか、そんな疑問だけが身の内を這い回る。  生涯の大部分を共にしてきたわたしの護り手……衛士(えじ)は一足先に死を賜っている。わたしの元で暮らしていた子供たちも皆、旅立ってしまった。  暗闇の中、ぽっかりと浮かぶわたしの傍には誰もいない。ひとりぼっちだ。  特に大きな病に侵されたわけではなかった。寿命でもない。強いて言えば、事故のようなものか。  わたしを照らす猛烈な光が今、破裂しようとしていた。わたしはそれに巻き込まれるのだ。  熱かった。  ひたすらに熱かった。地獄の業火に焼かれるとはこういうことかと初めて知ったが、それも一瞬のこと。すぐさまわたしの意識は暗転し、わたしという存在が消滅したことを悟った。 § 「――――地球?」  そして、わたしは前世の記憶を持ったまま生まれ変わった。  死後の世界でわたしを待ち受けるものは何もなく、気付けば新たなる生命へと生まれ変わっていた。今世と前世の間、途方もない出来事を体験した気がする。しかし、思い出せない。つまるところ、わたしが関与すべき領域ではないのだろう。  それよりも、今自分の足で立つこの大地のことが気にかかった。前世と同じ世界なのか、同じならばどの辺りだろうか。次元は。座標は。時間軸は? 思考を巡らせるが見当もつかなかった。 「ええ。我らのご先祖様は滅びゆく地球より旅立ち、この新たなる大地へと降り立ったのです。実に十万年以上前、神話の世界の出来事であります」 「地球、というのはどのような場所で?」 「このオーパーツをご覧ください。先日、超古代期の地層より発掘されたものです。この時代では到底考えられない球体の製造技術、精密な計測機器、そして故郷なる地球を物語った聖書。これこそが失われた文明に地球星人が実在したという証拠なのです」  見せられた写真はだった。  絶頂期の青く、美しく、緑溢れる時代を模したものだった。子供たちが地球儀と名付けていたそれが激しい劣化から蘇り、遺物として発表されたのだ。 「その地球はどこにあるのですか?」 「分かりません。違う銀河、もしくは異なる星団に存在した惑星だったのではないかと。30〜50万年前、恒星爆発の余波で消滅したと言われています」  未だ語り足りなさそうな新興宗教の信者をやり過ごし、わたしは駅前の空を見上げる。立ち並ぶ高層建築物の狭間にぽっかりと浮かぶ月――――この惑星の衛士(えじ)がいた。しかも双子だ。  わたしの衛士(えじ)は生まれ変わったのだろうか。そして、この惑星にも前世のわたしのような意志が、心が、あるのだろうか。  それを知る術はもはやわたしには、ない。
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