涙の代わりに花びらを

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「茉莉ちゃん、もう泣くのはおよし。おばあちゃんが生きている間にそんなに泣かれたら、あの世の川を渡る時に花びらに埋もれてしまうよ」 「どういうこと?」と、茉莉花は顔をあげ、首を捻る。 ガリガリに痩せ細った手で茉莉花の頭を撫でながら、祖母は"花びらの絨毯”の話を茉莉花に教えてくれた。 "人はね、命の灯火(ともしび)が消える瞬間、誰しもあの世に行くための川を渡るんだ。 川を渡りきるまで、その人の魂は肉体から完全には離れない。川を渡るまでの間にその人を想って泣いた人の涙の数だけ、花びらは川の上に降り注ぐ。その花びらはやがて絨毯となって、川を渡る時その人の足を濡らさないようにしてくれるんだよ” ーーー自分がまだ生きている間に、可愛い孫に泣かれるのは辛い。 きっと祖母なりのそんなメッセージだったのかもしれない。 「だから泣くのはおばあちゃんがお空にいってからにしなさい。でもね、いつまでも泣いてちゃいけないよ。思い切り泣いたあとは笑うんだ。泣いて下を向いているよりも、笑って前を向いてくれていた方がおばあちゃんもお空から茉莉ちゃんのことを見つけやすいからね」 そう言って祖母は笑った。 病室のすぐ外には、オレンジ色の実を咲かせた金木犀が風にのって揺れている。  茉莉花とのその会話を最後に、金木犀の優しい香りに包まれ祖母は永遠の眠りについたのだった。
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