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王様の依頼、その前につき!
「うそだぁ・・・うそだよぉ・・・。」
「もう、ギルド出てからずっとそれだね・・・。大丈夫?」
「うそだぁ・・・うそだろオォォォー・・・。」」
重々しい足取りでギルドを後にした俺は、ナターシャしゃんから貰った情報を手にズルズルと崩れゆくゾンビのように街を練り歩く。
あまりに気が滅入った様子に、周りの人々は思わず声をかけるのを躊躇い道を開けていく・・・。
ー サカエさん、どうしたんだ?なんか、湿気た顔してんなー・・・。もしかして、フラれたか?それなら、アタイもチャンスが・・・。
ーあんな元気ないサカエさん、初めて見たかも・・・。かわいそう・・・。私の胸で癒してあげたいわぁ・・・。
ー大丈夫かな?今夜、差し入れ持って行ってあげようかしら・・・。うんん!ダメダメ。まずは自分の気持ちを伝えないと・・・。
チラホラと周りから聞こえる声にも、反応できずに街をフラフラと歩き回る。
「うそだぁア゛アァァー・・・。」
「むうぅー!もう・・・ユーちゃん!!」
「へ?・・・あたっ!?」
ーぺチンッ!
目の前に急に回り込んできた観月は両手で両頬を挟むと、そのクリクリの丸い瞳を少し釣り上げて、まっすぐに俺の目を覗き込んでくる。
相手をしなかったことで拗ねているのか、少し膨らんだ頬が可愛らしかった。
「み、観月?」
「そんな暗い顔しないで。そんなグデグデになったユーちゃんなんて見ていたくないよ。私はいつも元気で笑顔で優しいユーちゃんが大好きなの!」
「・・・観月。うん、そうだな。ごめん、大丈夫だから。ちょっと、ショックが大きすぎてヘコんでただけだよ。」
「もう、お願いね、ユーちゃん。ショックなのは分かるけど、ユーちゃんがしっかりしてくれないと、ハーレムが傾くよ?私は幼馴染だからユーちゃんのことはなんでも分かるからいいけど、入ってきたばかりのみんなを不安にさせるようなことはしないようにね。」
「ん、気をつけるわ。ありがとう、観月。」
「いえいえ・・・!それじゃ、みんなのとこ帰ろっか。依頼内容と作戦を確認しないとね。」
「うん、そうだな。心配させたお詫びに、手を握って帰ろうか。」
「うん。ふふ・・・優しいね、ユーちゃんは。そういうとこ好きだよ。」
迷惑をかけたお代として手を差し出すと、観月は微笑みを浮かべてその手を取る。
俺がまた思考に落ちないようにだろうか、少し強めに握られた。
「あれ?やっぱり、怒ってる?」
「とーぜん。ギルドのお話の途中からずーっと放置されてたんだからね。その分、今からお部屋までは沢山、お話してよね♡」
「はは!あぁ、分かったよ。」
ギルドで依頼を確認した俺は、寄せられた依頼に目を通した結果、重要性の高い依頼を抜粋して受けることにした。
抜粋したのは全部で四つ。
まずはその内の一つ、王様の依頼に今から向かうことにする。
王様の依頼だ。面倒だが、不可避と言っていいだろう。
早急に熾天使ルーシーと合流し、情報を共有しないといけないな。
「一度、戻ってみんなに共有しとかないとな。ルーシーには、どう伝えようか・・・。というか、アイツどこ行ったんだ?元はと言えば、この依頼は天使族に出された依頼だろ!」
「ルーシーさん、また誰かに絡まれたのかもね。女の子に戻ってから、ナンパが凄いって言ってたし。」
「ナンパねぇー。まったく、女の子の迷惑考えて欲しいよね。」
「おぉー、どの口がいうかねー・・・。」
「え?何かおかしな点でも?」
「ははは!腹立つな~!この助平は。」
ー ギュウゥ~~!
「いだだだだ・・・!!?」
結んでいた手を力を込めて握り締められる。
そのせいで、俺の手は粘土のようにぐにゃりと変形してしまった。
「言いたいことがあるなら、口で言いなさいって、お母さんいつも言ってるでしょ!?暴力に訴えるような子に育て覚えはありませんよ!」
「誰が、お母さんだ。はぁ~・・・。本当、お母さんとお父さんに連絡できる手段があった速攻でユーちゃんのこと言うのになぁ・・・。絶対にお父さんなら飛んできてくれるのに。」
「それは、マジで勘弁してくれ・・・。今の関係を知られるだけでも、半殺しにされる。身体強化Lv3でも、無視してぶっ飛ばされそうだ。」
小学校の時に観月のパンツを覗いてるのがバレた時は、死ぬかと思ったからな。
ショットガン(改造モデルガン・・・であってほしい)を片手に丸一日、町中を追い回されたもんな。まるで、執拗に追いかけてくる様は、映画のターミ〇ーターそのものだった。
「あれは、ユーちゃんがエッチなことするからでしょ?」
「観月だって、それまでそんなに恥ずかしがってなかったじゃん。」
「成長したんだよ!女の子だって、成長するの!いつまでも、下着見られてなんとも思わないなんて思わないでよね!」
「んー。でも、最近は下着見られても昔ほど恥ずかしがることなくなったよな。」
「成長したんだよ・・・。女の子だって、成長するの・・・。毎日毎日、見られてたら、日課みたいになるんだよ。歯磨きと一緒だよ。そう思ったら、必要以上に恥ずかしさが無くなったんだよ・・・。」
遠い目をして、観月は小さく笑う。
どうやら、長年のハレンチで悟りを開いてしまったらしい。
「なんか・・・ごめん。」
「うんん。いいよ。絶対に許さんから。乙女の心を踏み荒らしたユーちゃんは絶対に許さんから。責任しっかり取るまで、この手は離さんよ。」
握った手を見せて、観月は光のない目で俺を見つめる。相当、過酷な日々を送らせてしまったようだ。
「その責任に・・・ゴールはあるんでしょうか・・・。」
「そうだねー・・・。私をお嫁さんしてくれる日が来たら・・・ほんのちょっぴり・・・許してもいいよ・・・?///」
指先で、ちょっと隙間を開けて見せると、照れたように観月は微笑んだ。
すっごい・・・可愛い・・・。
「お付き合いじゃなくて、結婚ね。なら、いつか、叶えられそうだ。ハグとキスでも、責任の前払いになるかな?」
ー ギュッ!
「あっ・・・。急なのは、ズルいよぉ~!うん、でも、なるよ?ちょっとだけ・・・///」
そっと腰に手を回し、抱き寄せると観月は真っ赤になって顔を胸に埋めた。
よし!今夜、思いっきり愛でよう。
これから少しでも、償っていこうじゃないか。
「それじゃ、前払い。ん・・・。」
「ん、んん・・・!」
ー チュッ!
「はぁ・・・♡いただき・・・ました・・・///」
軽くキスをすると、満足気に観月は微笑みぎゅっと胸に抱きついてくる。
観月さんのご機嫌は一気に回復したようだった・・・。
よかったよかった・・・。
これで、しばらくは観月パパは召喚されないだろう・・・。
頼むから、何かの事故で向こうと繋がるようなことはないことを心から祈るよ・・・。
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