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多くの人でごった返す店内を、縫うように歩いて行く。
何人かに声をかけられたが、笑顔で挨拶を交わすと先へと進んでいく。
店の中ほどまで来た時だった。
ー ドンッ!
「え?わ、わわわっ!?」
アクセサリーコーナーで物色していた女の子たちの中から弾き出されるように、誰かが飛び出してきた。
転びそうになるその人物の身体を支えると、グッと引き寄せて抱き抱える。
「っと、大丈夫?」
「え?あ、あわわ・・・!?」
フードを目深に被った女の子がすっぽりと腕の中に収まってしまう。少し、身長が低めのせいか、少し顔を下ろすと目の前に幼さの残る女の子の顔があった。
目が合うと、慌てたように腕の中で露骨に狼狽え始める。
「びっくりさせてごめんね?危なかったから、咄嗟に引き寄せちゃった。大丈夫?怪我はないかな?」
「・・・え?あ、はい!すみません、大丈夫です。」
ん?この子・・・赤眼か?この世界では、珍しい色の瞳してるな。
女の子はフードを目深に被り直すと、真っ赤になって俯いてしまう。
とりあえず、怪我がなかったなら良しとしよう。
「そっか、よかった。人が多いから、足元に気をつけてね。」
「あ、はい・・・ありがとうございます・・・。」
「あと、その赤眼、とても綺麗な瞳だ。誇るといい。」
「え!?・・・き、綺麗って・・・そそそ、そんなこと・・・///」
「ふふ・・・!それじゃ、気をつけてね!」
「あ、はい!ありがとうございました!」
フードの耳元で小さく囁くと、女の子に手を振り、更に歩みを進める。
目指すはメイさんのいるカウンター。
「メイさん!頼むから!寄りを戻してくれよ!」
「突然、別れを告げたと思ったら、今更、戻ってきてなに?悪いけど、寄りを戻すつもりはありません。さぁ、帰った帰った。他のお客さんの迷惑になるからね!・・・あ、お客さん、ごめんね!商品、預かるよ!」
「あ、お願いしまーす!」
「メ、メイさん・・・。お願いだ、もう少し話を・・・。」
カウンター越しにメイと言葉を交わす男。
その会話の内容から、どうやら元彼が復縁を迫ってきているようだった。
我ながらとんでもない場所に遭遇したと苦笑を浮かべつつ近付いていく。会話を聞いている限りでは、メイさんは男のことを相手にしている様子もなく軽くあしらっているようだ。それでも男が食い下がり困っている、そんな様子だった。
「はい!326Gです!・・・はい!毎度ありがとうございます!」
「メイさん!話を聞いてくれ!」
お支払いが終わり、商品を受け取ったお客さんと入れ替わるように再び、男がカウンターの前にしがみつく。
呆れた様子で、メイは男を眺めるとチラリと俺を見る。
すぐに終わらせるから待っててと、その口が動いた気がしたので、とりあえず、腕を組んで傍観することにした。
「メイさん、僕と寄りを戻そう!君を絶対に幸せにする!」
「幸せに・・・?はっ!笑わせないで!私が悲しみに沈んでいた時に、貴方は私に嫌悪の目を向けて見捨てたのよ?そんな貴方を私は一度だって許したことは無いわ!」
「・・・あの時はどうかしてたんだ。今なら君のことを誰よりも愛せると女神様に誓える。」
「愛さなくて結構です。私には、将来を誓い合った人がいますから!」
「将来を誓い合った・・・!?そ、そいつは誰なんだ!?」
「俺だよ・・・。」
ー ザワザワ!
ー キャ~~!
ー サカエさ~ん!
「ま、まさか、あんた・・・〈 サカエ・ユースケ 〉か!?」
「如何にも。俺がサカエだ。この街のギルド【水龍殺し】で冒険者をしている。」
【フレイム一家(通称:水龍殺し)】
俺たちサカエファミリーが所属するギルドだ。
ギルマスである、ヴァイシュ=フレイムが冒険の最中に素手で倒したとされる水竜の頭骨が飾られる特徴的なギルド。
その特徴から水竜殺しと、他のギルドからも一目置かれる存在だ。
ギルドランクはA級となっている。
ちなみに王都には、このギルドを凌ぐ【ライト一家(通称:邪龍殺し)】と呼ばれる更に化け物のギルドがいるそう。実は勇者ミラウェイドたちが所属するギルドでもある。
「まさか、あのサカエ男爵がメイさんの男だなんて・・・うそだろ・・・。」
「メイさんは、俺の女だ。何処の馬の骨とも知らないお前に、やるつもりは無い。とくに!彼女が本当に悲しんでいる時に、見捨てるような男に彼女は任せられない!それでも、諦めきれないっていうなら、男を上げて出直してこい!まずは、女の子の涙を拭えるくらいに強くなってな!」
「え!?ちょ!?サカエくん!?何する気!?」
「女の子を泣かせたヤツがいる・・・。なら、やることは一つ。お仕置きに決まってるでしょー・・・!なぁ、みんな・・・?」
「「イエ~~ス・・・!」」
「 サァ・・・粛清ノ時間ダァー・・・。 」
きぃー!きィー!キィー!
鳴らした指に合わせて俺の周りに集まったサカエファミリーが全員で、ニヤリ・・・と悪魔のような笑みを浮かべる。
その笑みに、店にいた皆の背に冷たいものが流れた・・・。
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