王様の依頼、その前につき

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ぐるぐると縄で男を縛り上げるとヒョイっと片手で持ち上げ、店で唖然としている皆の中を突っ切っていく。 そのまま店の前に出ると、広い通りの真ん中に男を置いた。 「い、いやだー!やめてくれぇー!」 「一名様おかえりだ!さぁさぁさぁ!せっかくの仲間の元彼さんだ。サカエファミリー総出で、ド派手にお見送りしてやろうじゃないか!」 「了解しました、主様!〈大地の砲台(Earth Cannon )〉!!」 ハヤーはビシッと敬礼すると、地面に手を付き土魔法を発動。 あっという間に砲台を作り上げると俺から男を受け取り、砲台に押し込んでいく。 「人間バズーカ砲!!よぉーーい!」 「yeahー☆」 俺の号令に合わせて、ハヤーがカラカラと音を立ててレバーを回し、砲台の傾斜や向きを調整していく。 目標を決め終えたハヤーはニヤリと悪い笑みを浮かべると、グッと親指を立てて見せた。 『なに!?これなに!?ここどこ!?何する気だ!?出せ!出せよ!うわあぁーん!』 砲台の中からは、男の叫び声が響く・・・。 「では、ハヤーくん。お仕置の時間death!アナウンスお願いしまーす!」 「YES、ボス!あー、あー、attention please!attention please!」 いつもの早着替えで、キャビンアテンダントに変身したハヤーは手元にマイクを持つと砲台に腰を下ろしニッコリと笑う。 んー!バスガイドさんも素敵だったけど、CAさんも素敵だね!よく似合ってるよ! 「お客様、本日はサカエファミリー航空をご利用下さいまして、誠にありがとうございます。 この便は、サカエ航空256(ブッコロ)便、“ディケーナ”発、“死の森”行きでございます。 この便は勇者航空、天使航空とのコードシェア便で機長は羽衣観月、私は客室を担当致しますハヤーでございます。 携帯電話など、電波を発する電子機器の使用は法律で禁じられております。 機内モードなどに設定するか、電源をお切りください。 なお、機内は化粧室を含め、全席禁煙です。電子タバコ等もご使用になれません。 それでは、どうぞごゆっくりお過ごし下さい。 ただいまから非常用設備についてご案内致します。」 『非常用!?ここから出れるのか!?頼む!脱出方法を教え・・・』 「非常設備はありません。以上です。」 『なーっ・・・!?』 「ご質問がございましたら、乗務員にお尋ね下さい。」 『は、はい!なんで、僕はここに押し込められてるんですか!?死の森って冗談ですよね!?僕は生きて帰れますよね!?どうしたら、許されるんですか!?』 「なお、ご質問は全て却下致します。」 『なーーーっ・・・!?』 「・・・では、エンジンに点火。観月!全力でやっちゃって!」 「はーい!それじゃあ、そろそろ〈ぶっ飛ばす〉ね!覚悟はいいかな?」 『か、覚悟なんてできてるわけないだろ!?僕が何したっていうんだ!僕はただ、メイさんと寄りを戻そうと・・・。』 「ちっちっちっ!それは違うよ?何もしてないから、こうしてお仕置きされるんだよ・・・。」 『意味が分からない!何もしてないなら、裁かれる理由はなんだ!?こんなのただの暴力じゃないか!』 大砲に手を置いて、観月は店の前に集まった皆を見回す。 その中にはもちろん、メイさんの姿もあった・・・。 「分かってないなー。彼女が苦しんでいる時、悲しんでいる時、助けを求めている時、そこから逃げ出したのは誰?伸ばされた救いを求める手を振り払ったのは誰?」 『そ、それは・・・。』 「意味もわからない“苛立ち”の原因を探ろうともせず、全てをメイさんのせいにして店を飛び出したのは誰?そのせいで、メイさんがどれだけ悲しんだと思ってるの!?そんなのメイさんが可哀想すぎるよ!それなのに、なに?原因が判明して、解決して、近付けると分かったら手のひら返してノコノコ戻ってきて!寄りを戻す!?幸せにする!?はっ!」 観月は鼻を鳴らすと、大砲を軽く叩いて怒りを露にすると周りをぐるりと見渡す。 見ている男一人ひとりの顔をじっくりと眺めると大きく息を吸って足を強く踏みつけた。 「女を舐めるのも、大概にしろ!!」 ーズドン! 観月を中心に怒気が周囲に広がる。 それは魔王の威圧と比べても遜色ない程の威力を持って、周りの人々の身体を震わせる。 身がすくんでしまった連中の中には何人か腰から砕けるように座り込む者もいた程だった。 「私たち女は、男の慰めものなんかじゃないんだ!私たち女にだって、心はあるし、もちろんプライドだってある!手を取ってくれれば嬉しいし、見捨てられれば悲しいよ・・・。ユーちゃんは、メイさんのために戦ったの!メイさんにかけられていた“人払いの呪い”を解くために、死ぬ思いで戦ったの!何もしてない、あんたなんかとは違う!ユーちゃんは、命をかけて、女の子を守ってるんだ!!!う、うぅ・・・!ううぅー・・・!!」 気付けば話している内に気持ちが昂ってしまったのか、観月はポロポロと涙を流しながら拳を握りしめる・・・。 強く強く!歯痒い気持ちと共に魔力を乗せて拳を握りしめる! 「女の子の気持ちが分からない大バカ野郎は!!ぐすん・・・!地の果てまで行って、出生からやり直せえぇ!ぐすん!うぅぅ・・・!!〈 ぶっとべえぇぇー・・・!!! 〉」 ー ガキィーン・・・! 大砲のケツを、ボクサーのような全力の大振りパンチで振り抜く観月。 その瞬間、観月の必殺技〈ぶっとべ!〉が発動した。 『 ほんとだよ!この大バカ野郎おぉぉー!そんなキミは地の果てまで飛んでけえぇー! 』 同時に、観月の怒りと悲しみの混じった叫びに同調したシルフィの風精霊の大魔法も発動。 大砲内で圧縮された風の力と、観月の本気のグーパンチが大砲の玉(痴れ者)に伝達された結果! ー ズドォオオォォーーン!! 「 うわああぁぁーー・・・ 」 男は街の建物を悠々と飛び越え凄まじい勢いで、ディケーナを囲う城壁すらも飛び越えていった・・・。 そのまま遠く離れた、ディケーナと光が丘の間の森へと落下した。 その森は通称、死の森・・・。 多くのモンスター渦巻く、地元民なら絶対に近付かない恐怖の森だ・・・。 まず、生きて帰るのも困難だろう・・・。 たが、生きて帰れたなら、少しは男も上げられるんじゃないだろうか。 まぁ、野郎のことなんて知らんけど・・・。 「お仕置き完了!いい旅しろよ・・・大バカ野郎!」 「「バカヤロー!!」」 星になった男に向けて、サカエファミリー全員でサムズダウン*を見せると、ニッカリと笑い大声で笑い合う。 サムズダウン*(拳を握り親指だけを下に向けるジェスチャー。 ブーイングサイン。) 周りで見ていた女性たちは、その大胆不敵な振る舞いに、得も言われぬ感動と共に爽快感を胸に抱くのだった・・・。
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