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「はぁー・・・。やりすぎだぞ、サカエ殿。」
「はい、すみませんでした。」
「なんで、私まで・・・。」
メイさんの店の前で、俺と並んで観月、シルク、ハヤー、そして巻き添え食らって、ルーシーが正座させられていた。
目の前には目を釣りあげた兵長のマタイさんが腕を組んで俺たちを見下ろしている。
一時は俺たちへ賛辞を送っていた人々も、マタイさんの怒号に一気に熱が冷めたのか、我先にと散り散りに逃げていった。
後に残された俺たちは、小さく苦笑するとどっかりとその場に腰を下ろし頭を下げる。
「何があったのかは、街の者たちから聞いた。大切な人を愚弄された怒りは分かるが、何分、方法があまりに危険すぎる。大砲はダメだろ。大砲は。」
「はーい・・・すみませんでした。」
「しかも・・・はぁ・・・人を飛ばすとか・・・もう・・・はぁ・・・。しかも、飛ばした先が・・・モンスター溢れる森とか・・・はぁ・・・。もう・・・よりによって飛ばしたのが、貴族の息がかかった商人の息子だし・・・はぁ・・・もう!サカエファミリーはもう!なんで、こう、無茶苦茶ばかりするかなーもうっ!はぁ・・・!」
ため息と、もう!という言葉ばかりを繰り返し吐き出しながら、マタイさんは胃を押さえ苦い顔で俺たちを見回す。
相変わらず、胃が痛そうだな。
「まぁまぁ、そんなに怒ると胃がオカリナになりますよ?精神抑制効果のお茶と胃薬はいりませんか?」
「「ぶっ!ふふ・・・!」」
俺の気づかい溢れる言葉に、隣で正座する観月たちが口に手を当て笑い出す。
ーブチッ!
「ばっかもおぉーん!!誰のせいでここまで胃を痛めていると思っている!」
「すみませんでした・・・。」
「「ごめんなさい・・・。」」
さすがにこれは逆鱗に触れてしまったのか、強面だが優男のマタイさんもさすがに怒髪が天を突いて怒り出す。
こえー・・・。修学旅行で見た仁王像くらい、おっかねー。
俺はプルプルと身を震わせながら、マタイさんの視線から逃れるように視線を逸らす。
街の人々の視線も痛いこと。
ただ、半分は迷惑そうに、半分は事情を知っているのか応援するような視線をこちらに向けていた。
「む、むぅ・・・。また、ユーちゃんがモテ始めてる・・・。」
「え?そうなの?」
「学園の時と同じだよ。ハレンチされた人達がユーちゃんの評価を改めて始めたんだ、きっと・・・。エッチでスケベで変態で、ちょっと気になる変な人ってイメージが・・・好転し始めてるんだよ。」
「ちょ、ちょっと、その初期評価は酷すぎないか?」
「当たり前でしょ?いきなり、声掛けられたり体触られたりして、喜ぶ女子がいると思ってる方がどうかしてるよ。」
「「うんうん・・・そうそう・・・。」」
何故か、観月の言葉に横に並んだシルクたちも何度も頷いてみせる。
そんな酷いイメージだったの俺!?
超ショックなんですけど。
「でも、それも日々伝わってくるユーちゃんの噂を聞いて、段々と男性としての魅力を感じ始めてるんだよ。つい最近なんて、王様から功績を認められて爵位まで貰っちゃってるし。」
「そうか・・・。だから最近、女の子たちに声かけられるようになったのか・・・。」
王都ではもちろん、王都から遠く離れたこの街でも最近は女の子たちから声をかけてもらえる機会が増えた。
単に、俺の側にサカエファミリーの子が一緒に居てくれることが多くなったことで、話しかけやすくなったのかと思ったが、俺自身の評価にもそうした噂が働いているとは思いもしなかった。
「まぁ、話しかけてくれるなら、俺は万々歳だけどね。」
「うぅ・・・また、悩まされる日々が始まるんだぁ・・・。ヤダよぉ・・・やっとユーちゃんと居られる時間が増えたのにぃ~~。」
学園でのヤキモキした日々を思い出したのか、観月は頭を抱えると鬱々とした顔で周りを眺めた。
「・・・大丈夫だよ、観月。」
「ユーちゃん?」
「今と昔は違うんだ。昔は幼なじみという関係でしか、俺と観月の距離を測る物差しはなかったけど・・・今は、ね?ほら・・・こんなにも距離が近い。」
「・・・・・・うん///」
隣で思い悩む女の子に手を差し出すと、観月は少し驚いた顔で俺の手を見る。やがて、その手の意味を察したのか、少し嬉しそうな顔に変わると恋人繋ぎで手を取った。
「えへへ・・・!うん!今なら、大丈夫な気がするよ。」
「そりゃ、よかった・・・。」
ニギリニギリ♡と二人で手の温かさと感触と感じ合い・・・二人で微笑みあっていると・・・
「おい、二人とも?今がなんの時間か忘れているわけじゃないだろうな?」
「「あ・・・。」」
覆い被さる大きな影と共に熱をも感じる程の炎をメラメラとその背中に宿し、マタイさんが俺たちを見下ろしていた・・・。
わ、わぁ・・・。その姿は正しく、不動明王尊やー・・・。
「やはり、反省が足らんようだな!今から、サカエファミリーは至急、飛ばした人を救出に向かうように!帰ったら、始末書を提出すること!!分かったかね!」
「うへぇーー・・・。」
俺たちに反省の色が見えないと思ったのだろう、マタイさんは目を釣りあげて罰を言い渡すと、ズンズンと足を踏み鳴らし街の巡回へと帰って行った。
ちっ。バカヤローのせいで、余計な予定が増えてしまった・・・。
俺たちは立ち上がると埃を払い、心配そうに周りに集まってきた人々に軽く手を挙げて笑顔で応える。
その後、森でモンスターに追い回されている男を発見。救出後、二三話したが、まだまだ反省している様子がないので、一計を案じることにした。
「ぬふうぅーん!!久しぶりだなぁ、サカエえぇー!今日はどうしたあぁー?」
男を上げるなら、プロに押し付け・・・もとい、お願いしてみようということで、ギルドから目と鼻の先にある〈 プラチナマンジム 〉のオーナー、オーガンに男を預けることにした。
「健全な肉体には、健全な魂が宿るってな。コイツを叩き直して欲しいんだ。自信を付けさせてやってくれ。」
「な!?え!?ここはまさか、プラチナマンジム!?や、やめ!化け・・・化け物にされちゃう!ヤダ!ヤダよー!」
「ぬふぅぅん!サカエの頼みとあれば、喜んで協力しようじゃないか!なんたって俺たちは!ぬふぅん!筋肉の友!マッスルフレンドなんだからな!」
ー ガシッ!
互いの腕を交差させ、筋肉をぶつけ合うと、二人でニッカリと笑い合う。
お!?今、腕を合わせた感じから察するに、少し力が強くなってる気がする・・・。
筋肉を唸らせ、オーガンは今日もキレてる筋肉を見せつけてきた。
「おぉー・・・。なんか、更にデカくなってるな。この大胸筋といい、大腿筋といい、更に厚さが増してる。広背筋はうん!素晴らしい!鬼神が宿ってるな!」
「「よ!ナイスバルク!」」
「ぬふうぅーん!」
ポージングも慣れたもので、更にキレが増していた。もう、どこからどう見ても、マッチョマンだ!
「さすが、プラチナマンジムのオーナー。鋼のような肉体だな。これなら期待できそうだ。」
「ぬふふん!任せておくといい!このモヤシは、オレが立派な特大メロンに仕上げてやるぞぉー。なぁ?」
「ひっ!?た、たす・・・たすけ・・・!」
「メロンか!そりゃいい!じゃあ!頼んだ!こっちもプラチナマンジムの宣伝は任せろ!」
「ぬふぅん!頼んだぞぉー!それじゃあ、行こうか!筋肉の園へ!」
「い、いやああぁぁーーー・・・!!」
ーギィィ・・・バタン!
ズルズルと引きずられ、男はジムの中へと連れていかれる。
僅かに扉の隙間から見えた中は、筋肉隆々の男たちがトレーニングに励んでいた。
唸る筋肉と荒い息・・・。
湯気が立ち上るほどいじめ抜かれた筋肉・・・。
筋肉・・・筋肉・・・筋肉・・・。
「筋肉の園っていうか・・・筋肉地獄だな。」
「あ、あはは・・・。」
俺のつぶやきに観月たちは小さく苦笑を浮かべていた・・・。
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