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  硫黄と深緑が入り混じった香りが鼻をかすめた。ここは山奥の元温泉旅館。今では廃屋のいわゆる心霊スポットである。僕は無謀にも近所のコンビニに行くような軽装で訪れた。     何故、僕がここへやって来たのか。それは失くしたものを探すためである。実は以前にも来たことがあったのだ。初めて来たときは、ひどく怯えていたためあまり記憶がない。しかしながら、僕はこの場所に忘れてはいけないものを忘れた。何であったかは定かではないが、とにかく忘れたのだ。目にすればきっと思い出す。そして失くしてはいけないものだ。     入り口の看板は朽ち果て、元の旅館の名前を読むことはできなかった。扉は施錠されていたが、ガラスが割り砕かれその意味をなさなかった。僕はスニーカーの底でガラス片を踏みながら侵入する。黴臭くて寂しい匂いがした。     ロビーはかつての面影を残しつつ、ひどく荒らされていた。夜逃げに近かったのかもしれない。客室に残された布団や、スタッフルームのマグカップ。黴と硫黄と腐臭。僕はそれらをすべて無視して、最奥を目指す。   
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