観覧車

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「え? 花音さん?」  戸惑う咲の背中に、花音はもう一方の腕を回し、ギュッと力を込める。すっかり抱きすくめられ、咲は大人しく花音の胸に顔を埋めた。  ──花音さんに触れられるのは、全然嫌ではない。  むしろ、ジンワリと伝わってくる体温に、萎縮した咲の心は解きほぐされていく。 「どう? 少しは落ち着いた?」  花音が尋ね、咲はコクリとうなずいた。  花音さんが傍にいてくれるだけで、とても心強く感じる。  同時に、それだけ花音に頼りきっている自分に気づいて、咲は少し怖くなった。  いずれ華村ビルを去るときが来て、彼との繋がりを失うことが……。  ふいに花音がフフッと笑った。  なんですか、と咲は花音を見上げた。 「……最初から、隣に座っておけばよかったね」  背中を優しく撫でながら、花音がポツリとつぶやいた。  太陽の光を反射して笑う花音は、茶褐色の瞳も明るく、長く黒い髪も日に透け、眩く感じた。 「……綺麗」  思わず見惚れて、心の声が口からこぼれてしまう。 「え?」  花音が驚いたように咲の瞳を覗き込んだ。 「あ、いえ、……いつも思っていたんですけど。花音さんの髪、とっても綺麗だなって。……触ってもいいですか?」  誤魔化しついでに、ちょっと踏み込んだお願いをしてみる。  花音は呆気に取られたまま、いいよ、とうなずいた。  ありがとうございます、と恐る恐る花音の髪に触れる。  黒々としたその長い髪は、適度にハリがあり、絹のように滑らかな肌触りだった。  それに、とてもいい香りがする。  どうやら、いつも花音さんから薫ってるフローラル系の香りは、シャンプーの匂いだったらしい。  咲はフフッと小さく笑った。 「なに?」と花音が不思議そうに咲を見つめた。
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