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「お金もないし、コンビニのイートインコーナーでどうしようかなって、ボーっとしていたら、花音さんに声を掛けられたんです」
悠太の表情に喜びが溢れる。その時の悠太はそれで本当に救われたのだろう。
頼れる先もない、お先真っ暗な状況で、手を差し伸べてくれた花音に。
「当時の僕は童顔でして」と悠太は笑う。
いや、今でも童顔ですから、と咲は心の中でツッコミを入れた。
「家出少年と思われたようです」
「家出少年……」
それはそうかもしれない、とうなずく。
「大量の荷物を持ってるし、顔色は悪いし。長時間、イートインコーナーに居座っているし」
「え? 花音さんずっと悠太くんのこと見ていたの?」
あ、いいえ、と悠太は首を振った。
「コンビニの店長さんが花音さんの知り合いだったらしく。心配して花音さんに連絡したみたいなんです」と説明する。
「それで、そのまま、住むところと職を提供して貰いました」
「職って、喫茶カノンの店長?」
そうなんですよ、と悠太はうなずく。
初めてあった子を喫茶店の店長に据えるなんて。花音の大らかさに感心する。
ふいに頭上から、ワーッという歓声が上がった。
見上げると、遊園地の敷地内全体をグルッと取り囲むように敷かれたジェットコースターのレールの上を、乗客を乗せたコースターが通り過ぎていく。奥のほうには、大きな観覧車も見えた。
「すごいっ」
悠太の目が明らかにイキイキとする。
「咲さん、急ぎましょう」
そう言って咲の手を取り、悠太は遊園地に向かって走り出したのだった。
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