藤の花の咲く頃に

2/9
前へ
/30ページ
次へ
「あー、楽しかった」  悠太が可笑しそうに笑いながら、大きな伸びを一つして、コースターを降りる。対して、咲は少しふらつきながら、地面へと足をついた。  子供用の小さなジェットコースターとはいえ、怖がりな咲には少し刺激が強すぎた。 「大丈夫ですか、咲さん?」  顔色を青くする咲を心配して、悠太は傍に寄り添い、肩を抱いた。 「あ、ありがとう……子供向けだから、大丈夫かなって思ったんだけど……ごめんね」  咲は悠太に支えられながら、ゆっくりとアトラクションの出口にある階段を降りる。 「こちらこそ、無理させてしまってごめんなさい」  悠太は眉尻を下げて、謝辞を述べた。 「ううん、私が乗りたかっただけだから。悠太くんと一緒なら平気かなって思ったんだけど。……ダメでした」と咲はガックリと肩を落とした。 「もう、咲さんったら」  悠太はまたクスクスと笑った。それから辺りをグルリと見渡して、「どこかでお休みついでに、お昼にしましょうか」と誘った。  そうね、と咲もうなずく。  時計を見ると、時刻は午後一時を過ぎていた。  悠太との時間はあっという間だった。  園内は休日ということもあり、なかなかの混みようで、どこにいっても長い行列ができていた。  遊園地初体験の悠太のことを考え、質より量を優先し、巨大迷路やコーヒーカップなど、なるべく行列の少ないアトラクションを回って歩いたが、それでも悠太には充分だったらしい。  キラキラと目を輝かせていた。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加