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「いただきます」
咲はパクリと玉子サンドに齧り付いた。途端に甘い玉子の味が口の中いっぱいに広がる。
いつも食べている玉子サンドとは系統が違い、スイーツ感覚でもいける味だった。
「悠太くんの玉子サンドは、甘い玉子焼きを挟んでいるのね」
「そうですよ?」
悠太は不思議そうに咲を見つめた。
「とっても美味しい」と咲はうなずく。
「でも、私、ゆで卵を潰してマヨネーズで和えた玉子サンドしか食べたことなかったから、少し意外で……」
「そうなんですか?」
悠太は目をパチクリとさせた。
「てっきり、これがスタンダードの玉子サンドだと思っていました」と頭を掻き、「──小さい頃に食べた味だから」と懐かしそうに目を細めた。
「小さい頃の?」
「ええ。ほんとに小さい頃だったので、確かな記憶ではないんですけど」
そう言って、玉子サンドを一口食べる。
「──母と二人で、今みたいに、藤棚の下で玉子サンド食べたなぁ、って」
モグモグと口を動かしながら、曰った。
「それが、一番印象に残っている母との思い出なんです。……なんてことない出来事なんですけどね」
悠太は肩をすくめて、咲を見た。
なんてことない出来事たからこそ、ふとした拍子に記憶が蘇るのだろう。
「……そういえば」
ふと思い出したように、悠太がつぶやいた。
「……擁護施設にいるとき、母の命日には必ず藤の花が贈られてきていたんです」と藤の花に視線を合わせる。
「あれは、誰からだったんだろう?」と首を傾げた。
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