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「藤の花を贈るとしたら、相当神経を使うよ。──花房が零れないように、萎れないようにってね。そのくらいやっても駄目になる時もあるし」と肩をすくめる。
「悠太くんに届いた藤の花は、どうだったの? 綺麗なままだったの?」と悠太を見、花音は尋ねた。
「はい。ここに咲いている藤の花のようにイキイキとしていました」
悠太は藤の花を見上げ、笑う。
「それなら、摘んですぐ届けられたんだろうね。……つまり、贈り主は自宅の庭に藤の木があるんだと思うよ」
「自宅の庭に、ですか?」と悠太は不思議そうに首を傾げた。
「だって、藤の花は花屋には置いてないし、どこかの公園や他所様の庭先から勝手に拝借するわけにいかないでしょ?」と花音は当然のことのように言う。
たしかに常識的に考えて、その可能性は高い。
相変わらず、理路整然と答えを導き出す花音に、咲は舌を巻いた。
「──更にいえば、贈り主の自宅も、その擁護施設の近くにあったんだと思うよ」
「そうなんですか?」
キョトンとして、悠太が花音を見つめた。
「さっきも言ったけど、藤の花はすぐ綻びてしまうし、萎れてしまう。摘んだままの状態を維持するのはとても至難の業なんだ。だから、なるべく早く届ける必要がある。……悠太くんの擁護施設は、この中山市にあったの?」
花音の問いに、はい、と悠太はうなずく。
「それなら、贈り主はこの中山市に自宅があって、庭に藤の木がある人だろうね」と花音は結論づけた。
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