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「もう一つの関係性、ですか?」
悠太が目をパチクリとさせ、首を傾げた。
「……悠太くんは、知りたい?」
どこか物憂げな様子で花音が尋ねる。悠太は、そんな花音に違和感を覚えつつも、好奇心には勝てないようで、「はい」とおずおずとうなずいた。
「これは、その……君の両親に関わることなんだけど、大丈夫?」
それに、悠太の顔がわずかに引き攣る。
しかし、すぐにいつもの人懐っこい笑みを浮かべると、「やだな、花音さん。僕、こう見えて、立派な成人男性ですよ。ちょっとやそっとのことでは驚きませんよ」と戯けて答えた。
そう、と花音は小さく息をつき、「それなら言わせてもらうけど」と続けた。
「──古来から日本では、藤の花は女性の象徴とされていたんだ」
「女性の象徴、ですか?」
「そう。垂れ下がる藤の花房を、艶やかな女性に見立ててのことらしいけど……」と花音はパーゴラから垂れる藤の花を指先で触れ、一房揺らした。途端に甘い香りが辺りへと広がる。
「対照的に、松は男性の象徴とされた」
「松が男性……」
そう、と花音は大きくうなずいた。
「で、その関係性を恋愛関係に例えることがあったの。──支えとなる『松』を男性に、寄りそうように絡みつく『藤』を女性に見立ててね」
「恋愛関係……それって」とつぶやいて、咲は花音を見上げた。花音は咲に目配せをし、そっと目を伏せる。
「──きっと、藤の花の贈り主は、悠太くんのお母様に想いを寄せている人なんじゃないかな?」
「想いを寄せている人?」
悠太はキョトンとした顔をする。
「それは、わざわざ手間暇をかけて藤の花を贈ることからもわかるように、お母様が亡くなられてからもずっと続くほど、深い愛情だった」
「……」
「メッセージカードに添えられた短歌はね、『恋しくて形見にしようと庭先に植えた藤の花が、今咲いていますよ』って意味なんだ。──君のお母さんのことを想っているんじゃないのかな?」
花音の言葉に、悠太は押し黙り、俯いた。
やがて、「……僕の父親ってことですか?」とポツリとつぶやく。
「──確か、君の父親の情報は、生死を含めてわかっていないんでしょ?」
はい、と悠太はうなずき、ギュッと拳を握りしめた。
「だったら、その可能性は高いと思うよ」
それから、と言いかけて花音は口を噤む。続きを話すべきか迷っているようである。
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