藤の花の咲く頃に

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「言ってください」  悠太が真っ直ぐな瞳で花音を見、続きを促すした。花音は少し躊躇ってから、話を続けた。 「……君のご両親は、いわゆる道ならぬ関係だったのだと思うよ」 「道ならぬ関係?」  悠太がキョトンとした顔をする。それからしばらく考え込み、「もしかして……不倫、ですか?」と尋ねた。 「たぶん、その可能性が高いだろうね。そうでなければ、そこまで愛した女性の子供を、黙って施設に入れさせるはずがないだろうから」  そう言って花音は顔をしかめた。咲も同様だった。  父親の身勝手さに嫌気が差した。自分の都合で身寄りのない子供を放っておくなんて。  そうなんですね、と悠太がうなずく。それから、よかった、とポツリとこぼした。 「よかった?」  咲は聞き間違えたのかと思い、悠太に尋ねる。それに、悠太は「はい」と笑顔で応じた。 「だって、父は生きているんですよね」と悠太が晴れ晴れと笑う。 「まぁ、そうなるね」  花音は渋い表情のまま、うなずいた。 「それなら、そのうち会えるかもしれないですよね、父に」  悠太は瞳を輝かせた。 「楽しみです」と嬉しそうに笑う悠太に、咲は尊敬の念を抱いた。  捨てられた憎しみや哀しみよりも、生きていることを喜ぶ純粋さに。 「あ、花音さん、お昼まだでしたら、一緒に食べませんか?」  悠太はそう言って花音にランチボックスを差し出す。 「まったく」と花音は小さく息をついて、悠太の頭をガシガシと撫でたのだった。
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