プロローグ

2/5
19人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
「最近、花音さんが過保護すぎる気がするんです」  田邊(たなべ)(さき)は『喫茶カノン』のカウンターにてこの店の店主・山本(やまもと)悠太(ゆうた)にぼやく。 「花音さんが、ですか?」  悠太はキョトンとしながら、カフェラテを咲の前に置いた。 「あ、可愛い」  咲は目の前に置かれたカフェラテを見て、頬を緩めた。  カフェラテには、先日、咲が伝授したハリネズミのカフェアートが描かれていた。下絵をくり抜いた紙にココアを振りかけ、描く方法だ。  そうでしょ、と悠太はホクホク顔でうなずいた。 「昨日、ようやくSNSにアップすることができたんです」と笑顔で告げる。  それから、「まぁ、まだ全然、反応がないんですけどね」としょんぼりと肩を落とした。 「そんなすぐ成果があるわけないだろ」  咲の後ろの、二人掛け席に座っていた男が呆れた声を上げる。  このビル──華村(はなむら)ビル三階の住人・瀧川(たきがわ)凛太郎(りんたろう)である。  悠太にSNSを使った宣伝方法を勧め、カフェアートを勧めた張本人だ。 「こういうものは、ゆっくり時間をかけて、ジワジワ浸透させていくものなんだ」と曰う。  そういうものなんですか、と悠太は素直にうなずいた。 「で?」と凛太郎は、コーヒーを一口啜り、咲に視線を移した。 「あんたは花音に迷惑していると?」  意地悪な笑いを浮かべる。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!