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「……それじゃあ、私たちも帰りましょうか?」
それに花音は「えーっ」と声を上げる。
それから咲の顔を覗き込み、「悠太くんのお言葉に甘えて、もう少し楽しもう?」とニコリと笑う。
無邪気な笑顔に、咲の心臓はドクンと力強く脈打った。
──もう、それ、反則です……
咲は居た堪れず視線を逸らし、心の中でボヤく。頬がジンワリと熱くなった。
「……観覧車、なんてどうですか?」
視線を逸らした先に、ちょうど観覧車が見えたので、誤魔化しついでに花音に提案してみる。
「観覧車……」
花音は片眉を上げ、その大きな建造物を見上げた。
高さ八十メートルを超えるであろう円形のそれは、その壮大な佇まいから、『なかやまランド』のシンボルにもなっている。
「咲ちゃん、怖いの苦手なんじゃない?」
花音は咲に視線を戻し、気遣わしげに尋ねた。
「……まぁ、そうですけど」とゆっくり廻るそれを眺め、咲はうなずく。
ただ廻っているだけなのだから、ジェットコースターのようにハラハラすることはないだろう。
「大丈夫ですよ」と答えて、咲ははたと気がつき、花音を振り返った。
「──私、怖がりだって、花音さんに言いました?」
「ああ」と花音は肩をすくめる。
「イメージだよ。咲ちゃん、小動物っぽいから、怖がりなのかなって」
──小動物って……
花音さんから見たら私は、小動物っぽいのか。
なんとなくガッカリする咲の手を取り、花音は「行こっ」と笑いかけた。
花音の大きな手の温もりに、咲の心臓はドクンと再び脈打ったのだった。
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