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「観覧車に乗るのは、子供のとき以来です」
ゴンドラのドアが閉まるなり、咲は口を開いた。花音と二人っきりの空間がこそばゆくて、黙っていられなかったのだ。
「咲ちゃんの子供のときって、十年くらい前?」
向かい合わせに座った花音が尋ねる。
「いえいえ。もう十五年くらい前ですよ」
「そうなの?」と花音は、意外そうな顔をする。
「あ、でも、そうか。……若く見えるから、つい学生かな、なんて勘違いしちゃうけど。よく考えたら、僕と大して変わらない歳だもんね」
そういえば、花音さんの年齢って知らないような。なんとなく三〇歳前後かなって勝手に思っていたけど。
「僕は、次の誕生日で三〇になるんだ」
咲の心を読んだように、花音が答えを返す。
ということは、咲より四つ年上ということになる。そのわりには、落ち着いて、博識で、大抵のことには動じないから、すごく大人な印象だ。
自分が三〇歳になったとき、花音のような人間になっているかは自信がない。
「お誕生日はいつなんですか?」
なんとなく落ち込みつつ、花音に尋ねる。
「うーんとね……八月」
「八月ですか?」
咲はクスリと笑った。
「なに?」と花音が不思議そうに咲を見る。
「いいえ。花音さん、いつも涼やかだから、夏っていうイメージはありませんでした」
「そう?」と花音は首を捻る。
「でも、夏はお花がたくさん咲いているから、やっぱり僕は夏じゃない?」
顎に手を当て、キザなポーズを決めて花音が曰う。
咲はクスクスと笑い、チラリと外に目を向けた。
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