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「か、花音さんっ。立ち上がったら危ないですよっ」
咲は悲鳴混じりに花音を制止し、ゴンドラの枠にしがみついた。
しかし、花音は「大丈夫だよ」と涼しい顔で返し、ゴンドラの中を移動して歩く。彼が一歩踏み出すたびに、ゴンドラは大きく傾いだ。
──大丈夫じゃないですってば。
揺らぐゴンドラに、咲は心の中でボヤく。
やがて、ドンっと花音が大きな音を立て、咲の隣りに腰を下ろした。その勢いでゴンドラがまた大きく揺らいだ。
「ひゃっ」
耐えきれず悲鳴を漏らす。
「もうっ……花音さん……ひどいです」
隣に座った花音を恨みがましく見つめ、咲は非難の言葉を投げつけた。
「ごめん、ごめん」
花音は謝辞を述べるが、悪びれた様子はない。
全く反省が見えない態度に、咲はムッと眉根を寄せた。
「そんな顔しないでよ」と花音が茶化す。
「……知りませんっ」
咲は口を尖らせ、プイッとそっぽを向いた。
が、その視線の先に、再び高度を上げた外の景色が飛び込んでくる。
「キャッ」
咲は小さく悲鳴を上げ、思わず身を縮めた。それを花音がフフッと笑う。
──全然、笑えない……。
相次ぐ醜態を花音に見られ、咲はしょんぼりと肩を落とした。
「もう、しょうがないな……」
花音はクスリと笑い、ゴンドラに捕まる咲の手を取った。
「どうせしがみつくなら、僕にすればいいのに」と咲の頭を自分の肩へと引き寄せた。
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