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「いいえ。花音さんの秘密がわかったから、嬉しくて……」
「僕の秘密?」
花音が片眉を上げ、ゴクリと唾を飲む。
「はい。──花音さん、いつもいい香りがしているから、なんの匂いかなって思っていたんです。フローラル系の……」
「ああ、シャンプーの匂いだ」
そうなんです、と咲はうなずいた。
「……うん?」
「はい?」
「え? それだけ?」
花音がキョトンとして咲を見つめる。
「そうですよ」と咲は首を傾げた。
──他に何があるのだろう?
花音の考えを探ろうとジッと彼を見つめる。花音はしばらくそれに付き合って咲を見返していたが、やがてグシャグシャと自分の前髪を掻き乱した。
「あのさ、咲ちゃん……」
「はい?」
花音が口元を手で覆い、尋ねる。気のせいか、少し顔が赤らんでいるように見えた。
「……その、ジッと見つめるの、癖なの?」
「ああ、そうですね。……興味を惹かれると、ついジッと見てしまう癖があります」
咲は慌てて花音から目を逸らし、答えた。
この癖は、人によってはいい印象を持たれないらしいので、気をつけていたのだけど。
「嫌でしたよね。……ごめんなさい」
咲はしょんぼりとうなだれた。
「ああ、違うの」と花音が焦ったように否定する。
「え? 違う?」
咲は再度花音を見つめた。
「……その、他意があるのかと思って……」
「他意、ですか?」
──やはり花音さんの言うことはいまいち理解できない。
咲は眉をひそめた。
「や、あのね……」
珍しく花音が動揺を見せる。それから「あー、もうっ」と自分の頭をグシャグシャと掻き回すと、「咲ちゃんっ」と咲の肩を掴んだ。
「は、はいっ」
花音は驚いて目を丸くした咲の唇を、指で軽くなぞった。その心地良さに、咲はそっと目を閉じる。
やがて、指が離れ、代わりに柔らかいものが唇を覆ったのだった。
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