プロローグ

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「迷惑なんて言ってません」  咲は慌てて否定した。 「……ただ、過保護過ぎるって言ってるんです」と続けた。  その原因には、心当たりがあった。たぶん、つい先日行われた、フラワーアレンジメント教室での出来事がきっかけだと思われる。  その教室は中山森林公園にあるカフェで行われ、咲は敷地内の森に迷い込んでしまったのだ。おそらく花音はそのことに責任を感じて、過保護になっているのだと思う。  だからと言ってだ。咲は小さくため息を零した。 「花音さん、休日のたびに、私の用事に付き合ってくれるんです」  咲は眉根を寄せた。  ほかの人が聞いたら、単なる惚気のように思われるかもしれないが、付き合っているわけでもない、ビルオーナーと一住人という関係では気にするなというのが無理な話だ。 「別にいいだろ。どうせお互い一人身で暇なんだから」  凛太郎が身も蓋もないことを言う。咲はギロリと凛太郎の意地の悪い顔を睨みつけた。 「だからって、いっつもいっつも、付き合ってもらっていたら、悪いじゃないですかっ」  思わず声を荒げた。それに凛太郎がニヤリと口の端を歪める。 「だってよ、武雄(たけお)」  悠太の後ろ、居室スペースのほうに向かって声をかけた。  え? 武雄って……。  咲は目を白黒させ、凛太郎が声をかけた方向を見つめた。  ややあって、居室スペースに繋がる通路に、バツが悪そうな顔をした花音が姿を現す。
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