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「か、花音さん……」
咲は目をパチクリと見開いた。
「や、やぁ、おはよう、咲ちゃん……」
いつもとは明らかに違う空々しい態度に、咲は話が筒抜けだったのだと、理解した。
「い、居たんですか?」
「うん、ちょっと……花を、生けてたの……」
そうなんですか、と相槌を打つ。気まずい空気が流れた。その様子を凛太郎がニヤニヤと面白そうに眺めている。
「……えーと、つまり咲さんと花音さんって、付き合っている?」
咲と花音を交互に眺め、悠太が小首を傾げた。
とんでもない、と咲は顔の前で大きく手を振った。
「付き合ってもいないのに、いつも付き合ってくれるから、困っているんです」
なんだか『付き合ってる』の連発で話がややこしいな、と思いながら、咲は悠太に弁明する。
そうなんですか、と悠太はニコリと笑い、よかった、とホッと胸を撫で下ろした。
「よかった?」
咲は首を傾げ、悠太の意図を推し測ろうと彼を見つめる。ええ、と悠太はうなずいた。
「もし、咲さんと花音さんが付き合っているのなら、少し頼みにくいことがあったので」
悠太はポリポリと頬を掻いた。
「頼みにくい?」
「はい。──実は、僕、ずーっと行ってみたいところがあったんです。けど、一人だとちょっと行きにくいところでして。……咲さんに付き合ってもらおうかなって思っていたところなんです」とはにかむ。
「なんだよ、それ。咲と行けるところなのかよ」
凛太郎がヤイヤイと揶揄う。
いつもなら言われるがままの悠太だが、今回は「当然です」とキッパリと凛太郎に言い返す。
それで凛太郎は、苦虫を噛み潰したような顔になった。
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