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「だったら、俺が付き合ってやるよ」
その腹いせなのか、珍しく凛太郎が手を挙げる。
「いえ、凛太郎さんはちょっと……」
「はぁ?」
またまた冷たくあしらわれ、凛太郎は不機嫌そうに悠太を睨んだ。
「だって、僕、遊園地に行きたいんです」
「……遊園地?」
思いがけない行き先に、皆んなが揃って声を上げた。それに悠太はコクリとうなずく。
「僕、今まで一度も遊園地に行ったことがなくて……。ずーっと行きたかったけど、一人で行ってもつまんないだろうし、花音さんや凛太郎さんが一緒だと気を遣ってしまうだろうし」と肩をすくめた。
「──でも、咲さんとだったら、一緒に楽しめるんじゃないかなって」
そう言って、咲へと視線を移した。
「遊園地……」と咲は口の中でつぶやく。
咲が最後に遊園地に行ったのは、かれこれ十五年近く前だろうか。両親と一緒に訪れたのが最後だ。
「いいですね、遊園地っ」
咲は大きくうなずき、ニコリと笑った。
「本当ですか? 咲さん」
嬉しそうに悠太が聞き返す。
「はい。私も久しぶりに行ってみたいです」
咲の答えに、「やったー」と悠太は無邪気にはしゃぐ。
「それなら、明日はどうですか?」と尋ねてから、「あ」と花音を振り返った。
「いいですか、花音さん?」
「どうして僕に……」
花音は眉を上げる。
「念のためです。もし、花音さんが明日、咲さんと何かを予定していたなら、また今度にしますから」
悠太は一応の気遣いをみせ、花音に提案した。
「……別に構わないよ。僕も明日は仕事が入っていたから」
花音の言葉に、悠太は、そうですか、と嬉しそうに笑う。
「だったら、咲さん。明日、遊園地に行きましょう?」
悠太はニコニコと咲に笑いかける。そうね、とうなずき、咲は近くの遊園地を思い浮かべる。
「この辺りだと、なかやまランドが近いけど、そこで大丈夫?」
「なかやまランド……」
途端に悠太の目がキラキラと輝き出した。
「そこっ。そこにしましょうっ。僕、本物のナカたんに一度会ってみたかったんです」
そう言って、咲の手を掴む。ちなみに『ナカたん』は、なかやまランドのうさぎに似たマスコットキャラクターだ。
「僕、明日お弁当用意しますよっ。楽しみですね、咲さんっ」
悠太は無邪気に笑うのだった。
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