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悠太の要望で、遊園地の最寄りの駅で待ち合わせた。
同じビルなんだし、一緒に出かければいいのに、と咲は提案したが、「それだとワクワクが半減しちゃいますから」と押し切られ、今に至る。
咲は腕時計をチラリと見た。
待ち合わせ時刻は、午前十時。今は五分前だから、そろそろ悠太が現れてもいい頃だろう。
「咲さーん」
予想通りのタイミングで、悠太が大きく手を振り、駆け寄ってくる。
今日の悠太は白のパーカーに紺のデニムパンツ、紺のジャケットを合わせたキレイめカジュアルだ。背中に大きめのリュックを背負い、カタカタと音を立てながら走ってくる。
その様子がまるで尻尾を振る子犬のようで、咲はクスリと頬を綻ばせた。
「……お待たせ、してしまって、申し訳、……ありません」
咲の前にたどり着いた悠太は、息も絶え絶えに謝辞を述べる。
「ううん。まだ、時間前だから、そんなに焦らなくても良かったのよ」
咲は首を振り、笑った。
「でも、自分から誘っておいて、お待たせしてしまうのは、ちょっと……」と悠太はしょんぼりと肩を落とした。
「本当に大丈夫よ」と咲は笑う。
「私もついさっき着いたばかりだし。それより……」
咲は周囲を見渡した。悠太が大きな声を上げて走ってきたので、注目を浴びてしまった。ジロジロと探るような視線が注がれて、居心地が悪い。
「……遊園地行こっか」
咲は居た堪れず、悠太を促し、その場をあとにしたのだった。
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