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「やだなぁ、咲さん」と悠太があっけらかんと笑う。
「そんな深刻そうな顔しないでください。僕、施設暮らしは、結構楽しくやっていましたので」
「そうなの?」
「はい。──施設暮らしっていうと、不幸だって思われがちですけど、全然そんなことありませんよ。施設の方は皆んないい人ばかりで、温かい思い出しかありません」
悠太はニコリと笑ってみせる。
「むしろ、施設を出てからが大変でした」と
肩をすくめた。
「施設を出てから?」
はい、とうなずき、悠太は「行きましょうか」と咲を促した。それに従い、咲は悠太と並んで歩き出す。
「擁護施設って、高校を卒業すると退所することになるんですけど。……僕、就職に失敗しちゃって」
「就職に失敗?」
「ええ。あの、就職はできたんですよ。でも、就職した会社が一年も経たずに倒産してしまって」
「倒産……」
それはついてない。咲は眉をひそめた。
「で、住むところも会社の寮だったので、倒産と同時に追い出されることになってしまったんです」
それは本当についてない。咲はますます眉をひそめた。
「それが、真冬の、雪がチラつく寒い日で。……もう本当にマッチ売りの少女の気分でしたよ」と悠太は冗談めかして言った。
しかし、口調とは裏腹に、当時を思い出したのか、その表情は神妙だ。
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