第1話 手を繋ぐ

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第1話 手を繋ぐ

   この春、僕は人生で初めて、女の子と交際することになった。  その女の子の名前は初瀬 伊万里(はつせ いまり)さんといい、僕より一つ年上の先輩である。 「おはよう、藤馬(とうま)君」 「おはようございます。先輩」  初瀬先輩は今日も綺麗だ。  こんなに綺麗な人が僕の彼女でいいのかと、何度も思ってしまうくらいには美しい。  というか、実際釣り合いは取れていないのだ  だから日々、僕は色んな嫌がらせを受けていたりする。 「……? どうしたんですか、藤馬君?」 「い、いえ、今日も先輩は綺麗だなと」 「あら、ありがとう♪」 (ああ、本当に可愛らしい……)  自分の彼女はこんなにも可愛いのだと宣伝して回りたいくらいなのだが、そんなことをすれば恐らく僕は殺されてしまうだろう。  そんなことをしなくても時々殴られたりするので、まず間違いない。  最近は大分減ったが、初瀬先輩と付き合い始めて間もない頃は本当に酷かった。  知らない先輩から足を踏まれたり、廊下を歩いているだけでガンを付けられたりと、それはもう色々とされたものである。 「えい♪」  そんな可愛い声を出しながら初瀬先輩が抱き付いてくる。  そう、これなのだ。これこそが、僕が色々な攻撃を受ける最大の原因なのである。 「ちょ、ちょっと先輩!? 公衆の面前でそういうことはやめて下さいって言ってるじゃないですか!」 「そうは言われても、藤馬君が可愛すぎて、ついつい抱き付いてしまうんですよ……」  初瀬先輩は、困ったような顔をしてそんな泣き言を言ってくる。  その顔も大層可愛らしいのだが、このまま続けられては僕の理性がヤバイ。  あと、周囲の視線もヤバイことになっている。 「僕も別に嫌だから言ってるんじゃないんですよ……。ただ、こんなことをされてしまうと、色々と不味いことになってしまうんです……」  初瀬先輩の胸はそれなりに大きい。本人曰く、Eカップなのだそうだ。  そしてそれだけあると、制服越しでもその柔らかさが主張をしてくるのである。  高校一年生の男子にとって、それは凶器にも等しい破壊力を持っていた。 「ふふ……、具体的に、どう不味いことになるんですか?」  しかも初瀬先輩は、それを理解した上で僕を誘惑してくるのである。  少しSっ気があるのか、僕が弱気なのを良いことに攻めに攻めてくるのだ。  ……正直、かなりタチが悪いとは思っている。  しかしどうしても、僕には彼女を憎むことができない。  お人好しだからだろうか? 「……わかって言ってるでしょ? 頼みますから、これ以上イジメないで下さい……」 「うーん……、では、手を繋ぎましょうよ。それでこれ以上は聞かないであげます」  それはまるで降伏勧告のようであった。  凶器を突きつけ、譲歩を促すなんて、やり方がまるで悪党である。 「わかりました……」  しかし、それでも僕は譲ることしかできない。  結局のところ本気で拒否してるワケじゃないし、むしろ嬉しいくらいなのだから仕方ないじゃないか……  ただ、僕だって男だし、いつまでもやられっぱなしでいるつもりはなかった。 (今日こそは、彼女の攻めに耐えきってみせる!) 「では、早速♪」  そう言って初瀬先輩が僕の手を握ってくる。  それだけでも僕はドキリとしたが、刺激的には抱き付かれるより遥かにマシであった。 (だ、大丈夫……、これなら耐えられそうだ!)  異変が起きたのは、そのおおよそ1分後のことであった。 「っ!? っっっ!?」  初瀬先輩の手が、その、妙に艶めかしく、僕の手の中で(うごめ)くのである。  指の間に挟まった彼女の指が一本だけ引き抜かれ、這いまわるように僕の手のひらを刺激してくる。  それは時に優しく、時に爪を立てるように、まるでナニか別の生き物のような動きで僕を攻め立ててきた。 「初瀬、先輩……、何を……」 「ふふ……♪ 変な反応をすると、バレちゃいますよ?」  初瀬先輩は僕と密着しており、その手の動きは周囲からは見えていない。  つまり、反応している僕だけが、おかしな人間だと思われかねない状況だ。 「や、やめてください……。不味いですって……」 「どうしてですか? 手を繋ぐのは、許してくれたじゃないですか♪」  そう言って、先輩の指はさらにねっとりとした動きで手のひらを刺激してくる。  既に結ばれた指は親指と人差し指だけになっており、手を繋いでいると言っていいのかすら怪しい状態になっていた。 「っ!? んぅ……!?」  そんな僕の反応を楽しみながら、初瀬先輩は僕の耳元に口を寄せてくる。 「手のひらって、結構敏感なんですよ。こんな風に優しく撫でられると、とても気持ち良いでしょう?」  何とか反応したいところだったが、押し寄せる快感に耐えることに必死で、満足に口を開くことすらできない。  男子とは比べ物にならないほど柔らかな女の子の指。  それが僕の理性を、ゆっくりジワジワと溶かしていく。  このままでは、本当にマズかった。 「す、すいませんーーーーーー!!!!!」  僕は何とか先輩の手から逃れ、ダッシュでその場から逃げ出す。  ――ああ……、今日も僕は、先輩の攻めに耐えられなかった……
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