誰の婚約者?

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誰の婚約者?

  ムカつく。 あれはなんだ。 社長の娘は美人じゃないか。 親ばか社長は何故か慰安旅行に娘を連れて行く。 何でも好奇心旺盛な彼女は、高校生からついて来ていたらしい。 大学受験から、ご無沙汰になり入学後また、お出ましになった様だ。 まるで知り合いみたいに話しをする奴にムカつく。 いや、社長の娘は紗智(さち)といったか? 彼女の方から、話しかけたんだ。 「あら、あの時の!」 「君は、あの時の!」 同じ様に驚く二人が、仲よくなるのにそう時間は掛からなかった。 「お父さん。この方は」 何だね?顔見知りなのかと聞く社長に彼女が紹介する。 ムカつく! 美鶴のクセに! ダメ美鶴は地べたを這ってろ。 それが似合いだ。 彼女の隣は俺こそ、ふさわしいのに! ギリッと心で歯噛みした。 それでもポーカーフェイスで彼女に挨拶した。 社交辞令の挨拶をされて、彼女の心はヤツにだけ向いている。 こんなはずがない。 何故あのウスノロなんだ! 「あの時、君が遅刻したのは紗智のせいなのか?」と社長。 「いえ僕は何も。困っていた様なので」 「紗智が言っていた親切な人は君だったのか!」 俺より目立ちやがって。 彼女は俺を見ない。 あんな美人がダメ美鶴の隣だと? ありえない! こんなのは、おかしい。 そうだ、おかしいんだ! なのに。 ホテルのディナーの後で、自由時間になってから、ワイキキビーチで 寄り添う二人の影を見つけてしまった! 心が早鐘を打つ。 腹わたが煮えくりかえる。 何故だ! 俺こそが相応しいのに! 手と手を絡める彼女の声を、ヤシの木影から聞いた。 「貴方を好きになったみたい」   「僕を?からかわないでくれ」 緊張してかすれた奴の声が響く。    静かだ。 波音しかしない。 「からかってなどいないわ。好きでもないなら、 何故こんなにドキドキするの?」 「本気、なのか。」 「本気よ。私と婚約して下さい。 父にも言うわ、私が決めた人は貴方だと」 「……だから、ねぇ。」 「キスして」 雌の声で彼女は言った。 こんな夜更けに浜辺で二人きりだと! 「同じだよ、僕も…君が好きです」 テメエまで雄になるのか? 唇を重ねる。 おずおずと、だが甘いキスを。 惜しむ様に彼女が奴に何かを渡し、立ち去った。 どうせカードキーだ。 女から誘うのか? そして奴は抱くのか? 女に答えるのか? こんな簡単に! 俺を足蹴にしやがって! そうなるのは、俺のはずだ。 社長だって俺の方を気に入っている。 そのはずだ! お前ではなく、そこに居るのは俺のはずなのに。 なぜこうなった? 引きずり下ろしてやる。 地べたを這え。 彼女を抱くのは、この俺だ!  
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