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穏やかな朝 天羽家
2020年 4月4日
若葉達の芽吹きを報せるこの時期に、否応なしに寄る年並に抗いながら私は鏡の前で気取って見せた
「お父さん、早く変わってよ」
一つしかない大きな鏡付きの洗面所は朝から大人気だ
「まあ待ってくれ。もう終わる」
娘の授(さずく)にそう言った私は急いで髪型をワックスで整えネクタイの位置を戻した
「お待たせ」
「もう!遅刻しちゃうよ!」
「悪い悪い。だけどな、文句を言うならお父さんより早く起きればいいじゃないか」
「お父さんが後五分早くしてくれたらいいだけでしょ!」
…やれやれ、年頃のせいか遂に反抗期が来てしまったか
ーー今年から高校一年になる授は、クラスのヒエラルキーを決める大事な時期なのか鏡の前で熱心に身だしなみを整えていた
「今日は遅くなるからね」
「ああ、私もだ」
「俺も遅いと思う」
テーブルでパンを齧りながらそう言ったのが息子の与(あたう)だ
中学三年生で授と一つ違いの与は今が思春期真っ盛り
「与!また私のタオル持ってったでしょ!」
「何でもいいだろタオルなんか」
「あれお気に入りなの!二度と使わないで!」
「そんなに大事なら自分で洗濯して干して畳めよ」
「はぁ!?」
こういうやりとりも最近になって増えてきた始末だ…
まあ順調に育ってくれてると思ったらいいのか
「あんた達早く支度しなさいよ!遅れるわよ!」
最終的に喝を入れるのは私じゃなく、決まって家内の実咲(みさき)だった
誰もこの人には逆らえない
二人は渋々黙って朝食を摂り始めた
こうして四人揃って卓を囲むことが毎朝の日課となっている
家内の実咲、娘の授、息子の与
そして私…天羽 唯人(ただひと)の四人の家族は
今日も平和な一日を送ろうとしている
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